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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年6月号

患者の立場から

ジストニアと難病法に対する私の思い

佐々木卓

私は、ジストニアという治療困難な病気に侵されている。ジストニアとは、自分の意思とは無関係に身体が勝手に動いたり、違う動きをしてしまう病気であり、人によって、首や瞼(まぶた)、声帯、手首、全身など、症状はさまざまである。原因は、身体の動きをつかさどる脳の大脳基底核に何らかの障害を来し、発症すると言われているが、詳細は不明である。

私の場合は、高校3年生の時、右手に症状がでてきた。私は、もともと字が汚かったが、周りからもそのことをいろいろ言われ、かなり気にしていたのである。その時、字をきれいに書こうとして、字がきれいだった友達の鉛筆の持ち方を真似して字の練習をしていたら、いつの間にか書くことができなくなってしまっていたのである。

その後私は1年浪人をし、千葉県内の大学に進学した。私は大学に通いながら各地の診療所、大学病院に通ったり、インターネットで調べたりした結果、ジストニアにたどりついたのである。

現在、私ははり治療を行いながら、老人保健施設で間接的な介護の仕事をしている。「間接的」という言葉を使ったのは、利用者のトイレ介助、入浴介助、おむつ交換などの直接的な介護の仕事をせずに、居室の掃除やベッドメイキングなどの仕事を主にやっているからである。

介護には記録という仕事が付いてくる。自分の今働いている施設では、パソコンを使わず記録はすべて書字であり、私はジストニアが原因で書くスピードが遅い上に字も汚くなってしまうので、全体的な仕事に支障がでてきてしまう。そのため私は上司にそのことを指摘され、間接的な介護の仕事をせざるを得ない状況になっている。

ただ、私も右手で書けないからといって、何も努力しなかったわけではない。私は、現在の仕事に就く前に、別の仕事をしながら左手で字を書く練習をしたりした。右手の方ははり治療のおかげで全く書けないことはないが、長く書いていると、少しずつ書きづらくなり字も汚くなってくるので、左手を使えるようにしたかったのである。2年くらいかけてだいぶ字が書けるようになって、現在の仕事ではほとんど左手で書いているが、もともと利き手ではないので、普通の人のようにきれいに早く書くことができないというのが現状である。

さて今回、新制度の難病法が2015年1月1日から施行されたが、残念ながらジストニアは指定難病の対象にはならず、医療費助成が受けられないことになってしまった。しかし今後、私には難病法に規定されることを願う制度がある。

私はこれまで記述してきたように、仕事の面で多くの苦労をしてきた。職場によっては、2年も働いていながら、ジストニアのこともあって突然、自主退職を迫られたこともあった。その後、別の施設で再び介護の仕事を始めたが、そこでもまた似たようなことになり、2か月で辞めることになってしまった。今になって思うのは、その時にもし、ハローワークに難病患者のための就労支援を受けられる窓口があったら、どんなに良かったのかということである。

そんな取り組みが2014年から始まっている。それが全国のハローワーク15か所に配置されている、難病患者就職サポーターである。これは、難病相談・支援センターと連携しながら指定難病に限らず、難病患者就職サポーターが就職を希望する難病患者に対して、さまざまな難病の特性を踏まえ、それに合わせたきめ細やかな就労支援を行うものである。このような難病患者専門の就労支援相談窓口があれば、就職に意欲を持っている難病患者が、そこで相談を受けながら安心して面接が受けられ、就職へとつなげることができると考えている。

難病患者は重度・軽度はあるものの、何かしら身体のどこかに不安な部分を抱えている。そのような負担を抱えながら生活していくのは、周囲の人にもなかなか理解してもらえないことも多いので、すごく大変である。今後、このような就労支援機関が増えていき、難病患者の不安を軽減して、安心して働ける社会になってほしいと願っている。

ただ聞いた話によると、就労支援相談の対象者は指定難病に限定されているわけではないのに、対応する人によっては、特定疾患でないと「対象ではない」と言って相談にすらのってくれない所もあるらしい。それでは困るので、すべての窓口が、どんな難病患者でも相談にのってくれる所であってほしい。

前述のような問題が多く出てくることを防ぐためにも、私は、この難病患者就職サポーターの制度を難病法に規定し、もっとしっかりとした制度に確立していってほしいと願っている。最後になるが、私は今回、指定難病の対象外になってしまった難病も対象内に入り、近い将来、医療費助成が受けられるようになることを切に願っている。

(ささきたく NPO法人ジストニア友の会)


【参考文献】

・福祉臨床シリーズ編集委員会編(2015)『障害者に対する支援と障害者自立支援制度〈第3版〉』P49、弘文堂

・厚生労働省HPより「難病患者就職サポーターによる支援」