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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年6月号

障害者権利条約「言葉」考

「性別に配慮した保健サービス」

米津知子

この言葉は、「第25条 健康」にある。同条は、障害者が最高水準の健康を享受する権利をもち、性別に配慮した保健サービスを利用する機会をもつことを認めている。そのために、締約国は障害者に、障害のない人と同じ範囲、質、水準の保健及び保健計画の提供、障害のために必要な保健サービスの提供、障害に基づく拒否の防止をすることとした。障害のために必要な保健サービスと、拒否の防止が含まれていることを評価したい。

一方で、保健サービスには“社会防衛”が入りやすい点に注意したい。日本ではかつて「優生保護法」や「心身障害者対策基本法」が、障害者の発生予防を法の目的としていた。障害とそれをもつ人を社会のリスクと見なして排除した影響は、今も残る。今後はこれを払拭し、障害者を障害をもったそのままで、健康を享受する主体として尊重する保健サービスが構築されてほしい。

次に「性別に配慮した」について考える。権利条約にはジェンダーの視点が入った。障害女性の複合差別を認識し、人権享有の確保を明確にした第6条のほかにも、性、性別、男女平等などの言葉が13の条文にあり、「生物学的性別(Sex)」と、社会通念や慣習から作られた「社会的性別(gender)」を使い分けている。第25条もその一つで、政府仮訳「性別に配慮した保健サービス」の原文にはgendersensitiveが使われている。「男女の心身の差異に対応するとともに、男女間格差が生じないように配慮した保健サービス」と読むことができる。

3つのことが思い浮かぶ。まずは、保健サービス利用機会の男女平等。そして、男女の心身の差異に対応する性差医療の普及。さらに、障害者の性と生殖、とくに障害女性の妊娠出産に関する保健サービスの保障だ。

第25条の(a)には、保健には性及び生殖にかかる健康が含まれるとある。また「第23条 家庭及び家族の尊重」は、障害者が生殖能力を保持し、子の数及び出産の間隔を決定する権利をもつことを認めている。これは重要だ。障害者を、性をもつ存在、家族を形成する主体として尊重するこれらの条文の趣旨を、保健サービスに実現させたい。

かつて「優生保護法」が障害者に不妊手術を強制した歴史から、同法改正後の今も、障害者の性と生殖に否定的な視線は消えていない。障害女性が医療関係者や家族から妊娠に反対されたり、障害をもつ妊婦が診療、入院を断られることもある。これらの問題を解消し、さらに、障害に応じた性教育、避妊法の開発、医療機関の認識と技術向上への取り組みが必要だ。

「性別に配慮した保健サービス」は、障害のない成人男性を標準としたこれまでの保健サービスから、障害のある心身、男性女性それぞれの心身に対応する保健サービスへの転換を求めている。

(よねづともこ DPI女性障害者ネットワーク)