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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年6月号

知り隊おしえ隊

知的障害・肢体不自由・発達障害のある人にとって使いやすい文房具

杉浦徹

1 文房具の今「機能的」という視点

鉛筆にペン、はさみ、定規、糊(のり)等々、いわゆる文房具は小中学校、高等学校等での教室で主に学習活動において活用されるものである。

しかし、それ以外の場面、また表現活動や日常的な活動においても、字を書く、糊で貼る、はさみで切るといった活動は頻繁にある行動である。それ故、文房具は誰にとってもポピュラなものであると言ってもいいだろう。

近年では市販の文房具であっても、疲れにくい、持ちやすい、書きやすい等の「機能的」というファクタが開発の指針の大きな一つとして文房具市場を賑わしているようだ1)

この機能的という視点が、障害のある人たちが持つ認知面、運動面の困難さを解決してくれることがしばしばあると筆者は考えている。以下、いくつか紹介する。

2 機能的な文房具

(1)シャープペンシル

1.鉛筆シャープ(コクヨ)

一般に学校で最初に使う筆記具は鉛筆である。発達障害のある子どもたちの中には、手先の不器用さを示す事例が少なくない。ある小学校の1年生のA君は、鉛筆で字を書くとマス目に納めることが難しいようであった。鉛筆を握ることはできるのだが、力が上手くコントロールできないように見てとれた。

そこでコクヨ鉛筆シャープを紹介した。この鉛筆シャープは軸径10mmで通常の鉛筆より太い。そして軸は新素材ゴムで滑りにくい。対応しているシャープ芯径は0.9mmから1.3mmと通常の物に比べて太い。この鉛筆シャープを使ってみたところ、A君はうまく書けるようになった。これだけでも十分素晴らしい結果だが、合わせて副次的な効果もあった。というのは、担任の先生は、A君にこの鉛筆シャープを導入するにあたり、A君だけでなくクラス全員に鉛筆シャープを導入した。すると、A君だけでなく他の児童の中にも持ち方や字の形に改善が見られたのである2)

2.シャープペンシル771(ステッドラー)

芯径1.3mmの芯を使う点では1と同じであるが、このシャープペンシルは軸径が太い。より少ない力で握ることができ、かつプラスチック製であるために軽い。

3.イージーエルゴ(スタビロ)

太軸シャープペンシルであることは1・2と同様だが、持ち手の部分の形状が左手用と右手用で異なり、持つ際の指の形をガイドする。芯径は1.4mmまたは3.1mmがある。

4.デルガード(ゼブラ)

字を書く時に筆圧が強く、鉛筆やシャープペンシルの芯がすぐ折れてしまい、上手く書けない場合がある。このシャープペンシルは圧力に対して、バネによるクッションが作用し、力をコントロールすることができる。故に芯が折れにくい。力を上手くコントロールしにくい事例には有効であると考えられる。

(2)ボールペン

1.ジェットストリーム(三菱鉛筆)

油性インクを用いたボールペン。ペン先が滑らかで筆圧が弱くても書ける。

2.エナージェル(ぺんてる)

水性インクを用いたボールペン。筆圧が弱くても書ける。水性故に乾きが早い。

3.イージーオリジナル(スタビロ)

このボールペンは形自体が流線型であり、持つ手の形になじみやすい。(1)の3と同様に左手用、右手用があり、握る時の指の形をガイドする。

(3)定規 弱視用定規15cm(大活字)

もともとは弱視の人のための定規だが、発達障害や知的障害の人にとっても使いやすい。黒字に白の数値と線で長さを示してあり、非常に見やすい。また一般的な透明な定規の場合、下の字や数字が透けて見えるために、定規の数値と混同してしまうことがあるがそれを防止できる。0の部分にツメが付いている。このツメがガイドとなり、線の引き始めがスムーズに行える点も優れていると思われる。

(4)カッター HARACマウス型カッター Line DLINEG グリーン(長谷川刃物)

はさみと並んで、カッターを用いることがあるが、それで自らを傷つけてしまえば、元も子もない。特に、手指の運動に困難さがあればその危険性は否定できないだろう。このカッターはマウス型をしており、クリックするようにボタンを押さえながら移動させると、樹脂に保護されてわずかだけ出た刃によって紙を切ることができる。そもそもは自由に曲線を切るためのカッターではあるが、定規をガイドにすることで直線を切ることもできる。

(5)糊 コクヨドットライナースタンプ(コクヨ)/ニチバン テープのり はんこのり(ニチバン)

通常の糊は固形、半固形、または液体であることが多い。紙等の上で糊をスライドさせることで紙に付着させるのが一般的な動作である。しかし、この場合、糊がはみ出し、他の物に付いてしまったり、手が汚れてしまったりして、作業に難渋することがしばしばある。この糊はスタンプのように押して使う。テープについたドット状の粘着物が紙等に付着することで糊の働きをするのである。また、手などに糊がついてもべたつきは少ない。

(6)セロハンテープ 片手でテープをハリマウス(ハリマウス)

セロハンテープを使う際の動作を分析すると、まずセロハンテープを指ではさみ、そのまま設置された台から引き出し、台のカッター部分に強く押し当てて切る、という動作に分けることができる。動作数も多いが、それぞれが異なった動きであり、運動に困難さがあればうまく使えないことが予想される。また、たとえこれら一連の動作に成功し、セロハンテープを切ることができても安心はできない。セロハンテープの粘着面同士がくっつき合い、貼れなくなってしまうのはまだ許せるとして、それが手にくっついて取れなくなるとと極度にイライラする。これは誰もが一度ならず経験しているのではないだろうか。

このセロハンテープは貼りたい部分でスライドさせることでテープが付着し、かつそのまま持ち上げるとテープがカットされる。

(7)消しゴム 電動字消し(ダイソー)

電動の消しゴムである。手指の力の調整が難しい場合、通常の消しゴムで字を消すと、消したい字以外の字を消してしまったり、紙自体を破ったりすることがある。電動消しゴムの場合、モーターで消しゴム自体が回転するので、消したい字に近づけることでピンポイントで消すことが可能になる。100円均一の製品なので、気軽に購入して試すことができるのがうれしい。

3 まとめ

(1)市販品にできること

従来、障害のある人たちが使う文房具は福祉機器として開発されてきた。それらはとても特別なものである。それらの価格は高く、入手が困難である場合が少なくなかった。

しかし、今回紹介した文房具は福祉機器ではなく、あくまでも一般的な文房具として市販されているものである。それ故、多くが安価であり、色や機能のバリエーションも多様である場合が少なくない。

言うまでもなく、福祉機器の方が高機能であることは否めない。が、しかし市販品の持つ商品としてのレンジが、時として障害のある人それぞれの特性とニーズに細かにマッチする場合が少なくないのではないだろうか。加えて、市販品は多くのユーザーの声によってブラッシュアップされ、機能等が改善される。その結果として、さらにさまざまな特性に応じた商品が生まれ、さらに優れた機能が安価で体験できる可能性があると言えるだろう。

(2)試すことから始めよう

市販品を使う上で十分に検討するべき点がある。

筆圧が弱くても書けるボールペンを例に挙げよう。このボールペンは確かに少ない力で字が書けるが、同時に力が入りやすい人にはコントロールが難しいかもしれない。そういう人にはむしろ重く、滑りがなめらかではないインクを使った通常のボールペンが適している可能性がある。そして、ペンそのものではなく、持ち手を工夫をすることでより実態に合った筆記具になるだろう。すなわち、使用目的と実態によっては文房具が持つ機能性が仇(あだ)になる場合があることに留意する必要がある。

それ故に、目的をクリアにして文房具を選ぶ必要があると考えられる。正確に書かなくてもいいメモ書きなのか、はたまた手紙を書く時に使うのか。目的によって筆記具も大きく異なるに違いない。

ネット上等にある一般的なユーザの評価を参考にしつつも、自ら身近にある文房具を試してみることが必要である。たくさんある文房具の中から、理想の一つを見つけ出すことで新たな表現や造形が生まれたり、学習や生活が楽しくなったりすることを筆者は願ってやまない。

(すぎうらとおる 長野大学社会福祉学部助教)


【参考・引用文献】

1)小山龍介・土橋正(2009)『STATIONERY HACKS!』マガジンハウス

2)杉浦徹(2014)「教室にICTを持ち込もう!目指せ!未来につながるCool & Rockな指導」『LD、ADHD&ASD』P52-53、No51、明治図書