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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年7月号

田舎町まで行き届いていたADA

佐藤聡

私の友人で、電動車いすに乗っていて、やたらと自然が好きな人がいる。2007年に彼に誘われてアメリカの自然公園巡りをすることになった。ロサンゼルスから入って、レンタカーでラスベガス、グランドキャニオン、ブライスキャニオン、モニュメントバレー、ザイオン国立公園と巡った。この時、ADAのすごさを体験したので、ちょっと書いてみたい。

田舎町の食堂もバリアフリー

アメリカって噂どおり本当にでかくて、町から町の間というのは何もない。車で5時間くらいぶっ飛ばしても、途中は砂漠しかないなんてところばかりだ。たまに町というか集落があるので、そこに入るとたいてい休憩となる。

腹減ったから飯食べましょうということで、田舎町の食堂に入るのだが、ここが車いすでもちゃんと入れるのである。最初の頃は、この店入れるわ、ラッキー!!とか思っていたのだが、どの町に行っても入れるのである。日本なら東京でも車いすで入れる店は少なく、田舎に行けばもっと大変だ。アメリカの田舎町はどこに行っても入れるな、なんでやろ?

ある時、これまた田舎町の食堂に入ろうとすると、入り口に2段段差があった。おー、ついに入れない店発見!と思ったら、張り紙が貼ってあり、「車いすは後ろの入り口から入ってください」と書いてあるではないか。行ってみるとバリアフリーの入り口になっていた。あら~、やっぱり入れるようになっているのね。これってやっぱりADAのおかげかな。

ガソリンスタンドは、どこも自分で給油するセルフ方式だった。当時、日本はまだセルフは普及していなかったので、俺なんか車いす乗っているから、いちいち車から降りてガソリン入れられねーよな、と思って見ていると、張り紙が。「車いすでガソリン入れられない人、このボタン押して呼んでください、手伝います」と書いてある。へぇ~このガソリンスタンド優しいじゃん、と思っていると、どこのガソリンスタンドに行っても同じような張り紙があった。おー、これもADAのおかげかよ。

最後まで行ける国立公園

グランドキャニオンに行くと、すぐにバリアフリールートを発見した。車いすはどうぞこのルートへと書いてある。坂が急なところなどは迂回してあるのだが、ほとんどが健常者と同じルートだ。さらに驚いたのは、崖のギリギリまで行けるのだ。そもそも絶壁の真横のルートでも手すりなんかないから、興奮度満点。年に何人か落ちて死んでいるらしい。この辺の考え方が日本と違うのね。さらに、バリアフリールートも同じように手すりがなくてギリギリまで行けるなんて、この点でも平等社会。

ザイオン国立公園は、公園の入り口の駐車場に車を止めて、巡回バスでまわるシステムだ。このバス、もちろん全部リフト付き車両だった。運転手もリフトの扱いに慣れていて、運転席に座ったままリフトを操り「おー、日本の兄ちゃん、良い車いすに乗っているね」なんて声をかけてくる。山の公園なのだが、川に沿って谷横の道を上って行くのである。このルートも完全にバリアフリー。車いすも歩行者も同じ道を歩いて上っていくのだ。驚いたのは、車いすでコースの最後まで行けたことだ。日本だとバリアフリールートがあっても途中で終わり。肝心の1番盛り上がる場所は見れずじまいというのがほとんどだ。しかし、ザイオン国立公園は道がなくなる最後の最後まで車いすで行けたのだ。これもADAの仕業か。恐るべしADA!

モニュメントバレー あれれ?

旅の最大の目的地はモニュメントバレーだ。西部劇に出てくる切り立った変な形の山がポコポコ立っている赤茶色の荒野。私の友人は、ここに来るのが夢だったらしい。いつものように公園の入り口に車を止めて、園内巡回のバス停へ。バス来たぞ、あれ、ただのトラックではないか。しかも、リフトなし。車いす乗れないじゃん。何台か待ったらリフト付きバス来るの?と聞いてみると、1台もありませんとのこと。おーい、日本みたいなこと言うなよ、ここアメリカだろ? いや、ありませんからという始末。しゃーないから、凸凹道を電動車いすに引っ張ってもらって巡ることになった。

しかし、ここまで3つくらい国立公園巡ってきたけど、全部車いすで行けるようになっていたのに、なんでここだけ何もないんだろう。どうしたADA! 気になって聞いてみると、ここはインディアンの自治区だから、連邦の法律は及ばないのよ。あ~そういうことね。だから、バリアフリーになってないのか。アメリカでもADAが及ばないところはバリアフリー整備されていないのね。法律って偉大だな。

日本は2000年にスタートしたバリアフリー法によって整備が進んできたが、法の対象が1日の乗降客3,000人以上の駅といったように、都市部に偏っている。その結果、地域間格差が広がって、都市部はバリアフリーだけど田舎は全然だめという状況だ。しかし、アメリカでは、人口数百人くらいの田舎町でもADAによって整備が進んでいた。さらに、健常者と障害者の場を分けないという思想(たとえば同じルート)も徹底している。こんなに隅々まで整備されるとは、法律の力はすごい。ADAによって同じように移動でき、同じ場所で楽しめるのである。日本も目指すべきはここだなと実感した旅だった。

(さとうさとし DPI日本会議事務局長)