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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年7月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

「住まい」について、住む人と創る人が一緒に考える!
合同シンポジウム「一緒にやろうや!『住』」の報告から

糟谷佐紀

最近、「住まい」に関するニュースが増えています。脱法シェアハウス、ネットカフェ難民、簡易宿泊所の火事など、貧困を背景にした住宅困窮に関するものから、空き家率が13.5%と過去最高というものまで多岐にわたります。「住まい」は、貧困、非正規雇用、超高齢社会、地方格差など、さまざまな社会問題を反映するものとして、今後も注目していく必要があります。

「一緒にやろうや!」

全国頸髄損傷者連絡会(以下、全国頸損連)と日本リハビリテーション工学協会(以下、リハ工協会)は、2008年3月に第1回合同シンポジウムを開催しました。利用者である障害者と、その生活を工学的支援技術で豊かにしたいと願う創り手が共に考える機会を持ち、さらに良い生活、社会を目指そうと願い始まりました。関東と関西で交互に開催することで、日常的な関わりを持てる距離にある者同士の交流が生まれ、継続しています。また、2010年には、頸髄損傷者の生活実態調査を両団体が共同で行い、「頸損解体新書2010」として発行しました。

報告するシンポジウムは、4回目となる合同シンポジウムとして、2015年3月21日に大阪で開催されました。実行委員の多くは、2009年3月に神戸で開催した2回目のシンポジウムにも関わっており、経験がありました。今回のテーマは「住」。住まいに関するさまざまな問題を話す場としたい、住まい手と創り手が情報交換できるプラットフォームとしたいという実行委員の熱い思いから始まりました。

私が障害者の住まいに関わって15年が経ちます。当初に比べると現在は、法律も制度も整い、技術と知識を持った建築士や工務店も増えています。私は、今回のテーマである住まいが「今さら」必要なのかという気持ちがありました。しかし、メンバーから「でも、まだまだやねん」という声が上がり、その「まだまだ」の意味を探ろうと企画が始まりました。熱心な広報活動のおかげで、当日は、100人を超える参加者となりました。

日本の障害者の住まいの状況

最初に私が、日本の障害者の住宅実態について話しました。日本の持ち家率は61.9%(2013年)であるのに対し、障害者のそれは78.1%と高い比率となっています。障害別に見ると、身体82.2%、知的68.1%、精神63.1%と違いがあります。住宅改造を必要とする身体障害者は持ち家ではないと難しい事情があると考えられます。言い換えれば、持ち家でない身体障害者は、住宅改造をしづらい状況にあると言えます。前述の「頸損解体新書」では、回答者の約7割が持ち家であり、約8割が新築・改築・改造を経験していました。今回のシンポジウムは、住宅改造が中心ですが、住宅取得に大きな課題があることも考えなくてはなりません。

住まい手から

頸髄損傷で人工呼吸器を使用している米田進一さんから、ご自身の経験を話していただきました。受傷前に購入、一人暮らしをしていたマンションにて、退院後、両親と共に在宅生活を始めました。しかし、リビングを寝室としたこと、浴室に入れず訪問入浴であったこと、さらにはエレベーターが狭く、フットサポートを取り外さなくては乗れないなど、電動車椅子使用者としては不具合が多い住宅でした。南海トラフ地震の津波被害が想定される地域と知ったことをきっかけに、両親と姉家族と同居する新築住宅を建てることにしました。

米田さんの希望は、「リビングで家族と一緒に食事」と「自宅の浴室での入浴」の2つでした。しかし、いざ引越してみると、どちらの希望も叶わない住宅となってしまいました。障害者の状況をあまり知らない設計者・工務店であったこと、家族に任せて打ち合わせに参加しなかったこと、などさまざまな要因があります。しかし、住まい手の思いを設計側に伝えることができていなかった、もしくは思いを受け止められない設計側であったのかもしれません。米田さんの近くに居た私も含めリハ工協会メンバーは、この件に介入できなかったことを悔やんでいます。米田さんの話から、「まだまだ」の部分を少し理解することができました。

創り手から

次に、ケアリフォームシステム研究会の井手誠一さんに、創り手側の話をしていただきました。この研究会は、北海道から沖縄まで全国に存在する建築事業者の団体です。介護のためだけではなく、自立(律)につながるリフォームを目指したいという想いから行う介護リフォームを「ケアリフォーム」と呼んでいます。研究会では、情報交換、勉強会、事例検討会などを行い、日々知識と技術を積んでおられます。井手さんも、一人の障害のある施主に寄り添い、住まいだけでなく生活すべてに関わっておられます。「他の仕事もありますよね?」と思わず聞いてしまいました。井手さんは、目の前にいる人に笑顔になってもらいたいという一心で関わっておられます。このような創り手ばかりであれば良いのにと感じました。

情報を提供する努力、得る努力

川村義肢株式会社のショールーム見学とバリアフリーカーコンサルタントの協力による福祉車両試乗会の後、来場者を交えたディスカッションとなりました。会場には、住まいに関わる人々が多く来られていましたので、パネラーの話を聞き、すぐに会場にマイクを回しました。

日頃、住まいに関わる病院の作業療法士や訪問看護ステーションの看護師から、創り手と住まい手のコミュニケーションがうまく取れずに、不満が残る結果となる事例は多いという話がありました。「誰が中心となればうまくいくのか」「情報を待つのではなく取りにいくべきだ」「受傷してベッドで寝ている状態で住まいのイメージを持てない」などさまざまな意見が出されました。

住宅は、金額の大きな買い物です。「失敗だった、でも次は」というわけにはいきません。退院時期が迫り、慌てて住宅改造を行う状況もあるものの、やはり冷静に情報を集め、準備段階に力を入れる必要があります。「同じ身体機能の人の自宅を見る、泊めてもらう」「失敗談、成功談を聞く」「専門職の意見を聞く」「インターネットで検索すると情報は手に入る」などのアドバイスもたくさん出ました。これらを聞いて、住まいに関する「まだまだ」は、知識や技術ではなく、情報入手の方法や、情報の交通整理なのだと理解できました。

来場者アンケートには多くの記述があり、関心の高さがうかがえました。住まい手と創り手を結ぶコーディネーターが必要であるという意見が多くありました。また、住まいをテーマとしたシンポジウムで、住まい手の話を多く聞くことができる機会はこれまで無かった、という意見もありました。

今回は、リハ工協会やケアリフォームシステム研究会という創り手と、全国頸損連という住まい手が共に作り上げたシンポジウムであったからこそ、双方の話を聞くことができたのだと思います。「まだまだ」情報を手に入れられていない人がいること、「まだまだ」成功した住宅改造ばかりではないことなど、私自身も改めて考えさせられたシンポジウムでした。

一緒につくることの大切さ

シンポジウムの開催に向けて、顔を合わせた打ち合わせは2回、後はメーリングリストでのやり取りでした。関西開催は2回目ということで、お互いの状況がよく分かっていました。パネラー、司会、受付、誘導案内、広報活動は全国頸損連メンバーが、会場設営、準備物の作成、チラシのデザイン、会計、ボランティア募集などはリハ工協会メンバーが担うと役割を分担したことが、スムーズな進行につながりました。川村義肢株式会社の社屋での開催により、多くの社員の方から協力を得られたことも大きな要素でした。感謝の気持ちを末筆ながら添えさせていただきます。

(かすやさき 神戸学院大学准教授)