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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年8月号

1000字提言

福祉先進国は本当?:
テクノロジーでは補えないもの

石田由香理

イギリスには車内放送がないバスがよく走っていますし、バス停で待っていたとしても、ドライバーが外に向けて行き先を放送してくれることなどはありません。一体どうやって単独でバスを利用するのかと、イギリス育ちの視覚障害者に聞いてみたところ、iPhoneを使うんだという意外な答えが返ってきました。どうやらiPhoneで、自分の現在地を特定し、乗りたいバスの番号を指定すれば、その番号のバスが待っているバス停に来た時に知らせてくれるアプリがあるらしいのです。なるほど、テクノロジーの進歩は素晴らしいと思う一方、それくらいのことを周囲の人に聞けない、対話のない社会になりつつあることに違和感を覚えました。

白い杖を持って電車などを利用する際、誰かに声をかけてもらえる頻度は日本よりは少ないのですが、それでもたまに、「一緒に乗ろうか?」「どこまで行くの?」などと声をかけてくれる人たちがいます。

日本と違って、駅員さんの案内も、下車駅に連絡し忘れていたり、あるいは下車駅のほうで迎えに行くことを忘れていたりで、実際に降りてみると誰もいないことがよくありますし、どういうわけか電車が運転を見合わせたり、ある駅が閉鎖されたりすることも毎週のように起きます。そういう予期せぬ事態に巻き込まれた時、結局、臨機応変に対応してくれるのは周囲の人たちです。

サセックスの最寄り駅からロンドンへ行くには、まず各駅停車の電車でブライトンまで出て、そこからロンドン行きの特急に乗り換えるのですが、4月にロンドンへ行こうとした際、ブライトン駅が閉鎖されたことがありました。ロンドンへ行く唯一の方法は、逆方向の別の特急停車駅であるルイスまで戻って、そこから乗り換えることだと言われました。駅員さんは運転見合わせの対応でホームに行っていて、改札には誰もいません。そんな時、声をかけてくれたのが、彼女もサセックスの学生だというオーストラリア人の女の子でした。二人の行き先は違ったのですが、彼女は私と一緒にルイスまで戻り、ルイスで駅員さんに引き渡してくれました。思わぬハプニングに巻き込まれた二人が、すぐに仲良くなったのは言うまでもありません。

長年過ごしてきた日本、以前留学したフィリピン、そして9か月過ごしたイギリス…、先進国でも途上国でも、設備や福祉制度が違ったとしても、結局、最後に頼りになるのは人なんだなと。テクノロジーの進歩では補いきれないものがある、時代が流れても失いたくないのは人同士の繋(つな)がりだなと、留学を通して改めて思いました。


【プロフィール】

いしだゆかり。1989年生まれ。1歳3か月で全盲となった後、高等部卒業まで盲学校に在学。国際基督教大学在籍時代に1年間フィリピンに留学。2014年9月より英国サセックス大学国際教育開発研究科(修士課程)在籍。2015年6月より、外務省インターンとして、認定NPO法人ICANにて勤務、フィリピン駐在。現在、仕事と修論執筆を両立中。