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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年8月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

競技者だからこそ果たせる役割とは何か
―日本パラリンピアンズ協会の活動

堀切功

パラリンピック競技大会(夏季・冬季)に出場した経験を持つアスリートを、「パラリンピアン」と呼びます。最近では少しずつ、この言葉も知られるようになってきました。

私たち日本パラリンピアンズ協会(PAJ)は、そんなパラリンピアン、つまり日本代表経験者の有志によって組織された選手会です。2003年に発足し、2010年2月12日に法人格を取得して一般社団法人となりました。Sports for Everyone(すべての人にスポーツを!)を掲げ、2015年6月末時点で、会員数は191人です。

PAJの活動の目的は、パラリンピアン同士がつながり、国内外のスポーツ団体やアスリートたちと連携しながら、パラリンピアンとして社会に貢献することにあります。そして、私たちの考える貢献とは、次のようなものです。

●障害の有無にかかわらず、誰もがスポーツを楽しめる社会の実現に寄与する。

●パラリンピックについて正確な情報を共有し、スポーツの素晴らしさを伝える。

●パラリンピックを含むスポーツへの支援、共感、協力の輪が広がることを願う。

●選手が安心して競技に打ち込める環境を整えるため、広く社会に働きかける。

そして、これらの目的に向かい、次の事業を行なっています。

●パラリンピアンの自己研鑽・自己啓発事業

●パラリンピアン及びその活動等に関する理解・啓発事業

●パラリンピアン及びその活動等に関する情報の収集・調査・提供事業

具体的に、これまでに行なってきた事業、そして現在進めている事業のいくつかをご紹介しましょう。

メディアに広く取り上げられた実績としては、2008年と2012年に実施・公表した「パラリンピック選手の競技環境実態アンケート調査」を挙げることができます。パラリンピックに挑戦する選手の競技環境については、場所や時間、人材、費用のいずれもが不十分であるという声が断片的には聞こえていましたが、総合的にまとめた調査研究資料はなく、初めての試みであったと思います。

この調査では、特に競技活動にかかる費用の平均額にメディアが注目し、多くの記事に引用されました。北京とロンドンの両パラリンピックの開幕前というタイミングで公表したことも、注目を集めた理由の一つとなったように思います。なお、この調査は、今後も継続して行なっていく予定であり、さまざまなデータの推移から、パラリンピアンの環境の変化が見えてくることに注目しています。

また、2011年の東日本大震災の後には、被災した障害者アスリートへの支援を目的にした募金活動や、被災地でのスポーツ活動にパラリンピアンを派遣する支援プロジェクトを実施しました。東北地方に在住し被災したパラリンピアンや、障害をもつアスリート及び関係者も少なくないなかで、PAJとして何かできることはないかと考えて行動に移したものです。

2020年オリンピック・パラリンピックを東京に招致するためのさまざまな活動にも、多くのパラリンピアンが協力しました。個人としての動きが主ではありましたが、PAJの理事や会員が重要な役割の一部を担ったことを喜ばしく感じています。そして、2020年の招致活動を通じて、オリンピアンとパラリンピアンが互いに手を取り合い協力する機運が自然に広がっていきました。「パラリンピックをスポーツとして見てほしい」と訴えねばならない時代が長く続いていたことを思えば、まさに隔世の感があります。

そして現在、活動の比率が急激に高まっているのが、障害者スポーツの理解啓発のための講師派遣事業です。これは、教育機関や企業・団体等を対象に行う講演活動で、パラリンピアンが競技活動を通じて得た経験をもとに語るものです。開始した当初は、年間2件程度の依頼にとどまっていましたが、2020年オリンピック・パラリンピック開催都市が東京に決定した2013年9月以降、問い合わせが増え続けています。2014年度は、年間17件を実施するに至りました。

講演依頼の増加には、2020年の東京大会開催を機にパラリンピックへの関心が高まったこと、東京都などの自治体が「オリンピック・パラリンピック教育推進校指定」といった制度を導入したこと、「2020年に向けて何か協力したい」という企業や団体が増えたことなどが背景にあると思います。

また、パラリンピアンを講師に呼びたいと考えたものの、どこに依頼をしたらよいのか分からず、探しまわった末にPAJにたどり着いたという声も多く聞かれました。さまざまな競技の選手を会員として抱えるPAJが、そのような需要の受け皿として機能しているという側面があるのではないかと感じています。

ただ、依頼が増えたからといって、PAJの講師派遣事業はパラリンピック理解啓発の一環であるということを決して忘れてはなりません。「パラリンピアンだから伝えられること」を分かりやすく発信していく役割を、これからも果たしていく必要があります。

実は、そこが今のPAJにとっての課題とも直結しています。講師には、自らの経験を踏まえた上でパラリンピックの価値を理解し、それを分かりやすく伝え、ファンを増やす魅力的な語りの技術が求められます。

現在、PAJでは勉強会や理事会を通じてお互いの知識を高めたり意見交換したりするようにしており、講師も主に会長・副会長・理事が務めています。しかし、「パラリンピアンの話を聞きたい」という依頼は今後も増えると予想され、限られた人員で対応を続けることに限界を感じ始めているのが実情です。そこで、講師を任せられる人材を会員の中から育成していく必要性に迫られています。そのための勉強会や研修会の充実を、早急に図らなければなりません。現役選手には競技活動に支障のない範囲での協力を、そして一線を退いた選手には、次代のPAJを担う積極的な参加を、それぞれ呼びかけていきたいと考えています。

このようなPAJの活動をより広く知っていただき、さまざまな形での理解と協力を得るために、このほど一連の事業に「パラ知ル!」という名称を付けることにしました。これは「パラリンピックをもっと知ろう」の意味を持たせたもので、パラリンピアン自身が学んで知り、なおかつそれを伝えて知ってもらうという、2方向の「知る」を含ませています。今後は、たとえば「パラ知ル!講演会」や「パラ知ル!セミナー」といった形で広く展開していく予定です。

最後になりますが、現在、パラリンピアンに関心を持った方の窓口としての役割が、PAJに期待されていることは前述のとおりです。できる限り対応していきたいと思っていますが、パラリンピアン自身がパラリンピックに真摯に向き合うことがその大前提になります。他競技の事情はどうなのか、世界各国の動きはどうなっているのか、そして、パラリンピックはどこに向かおうとしているのか…。知識や情報を積極的に吸収し、自ら考え、意見を交換して、そのことを発信できる人材を、ひとりでも多く輩出することがPAJの重要な使命だと思っています。

今後はますます、トップレベルの競技経験を持つパラリンピアンの活躍の場が、国内外を問わず広がっていくはずです。日本のパラリンピアンが歩む未来に、どうかご注目ください。

(ほりきりいさお 一般社団法人日本パラリンピアンズ協会事務局長)


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