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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年8月号

ほんの森

北欧=幸せのものさし
―障害者権利条約のいきる町で―

薗部英夫著

評者 中津川浩章

全障研出版部
〒169-0051
新宿区西早稲田2-15-10
西早稲田関口ビル4F
定価(本体1700円+税)
TEL 03-5285-2601
FAX 03-5285-2603
www.nginet.or.jp

デンマーク西部の都市オーフス。そこにある「メディアワークショップ」では障害者がロックバンドを組んでツアーに出る。後方支援も含め、みな仕事として音楽活動に取り組んでいる。障害者のプロのロックバンド!それはいつか見てみたい。

ミゼルファートにあるアパートに暮らすハンスの部屋にはナミビアの子どもたちの写真がある。それは障害がある彼が里親として支援している子どもたちだ。

スウェーデンのイエテボリに住むホーカンは言う。「人間が質の高い生活を送るためには、1.快適な住居、2.好きな仕事、3.教育、4.余暇などのレジャータイムが必要だ」。身体障害がある彼はより重い障害のある彼女と婚約中。2人のために朝にはたくさんの介護者がくる。

障害がある人たちがどんなふうに暮らしているのか。北欧の福祉現場の20年にわたる定点観測、インクルーシブ教育や統合教育の現状から受刑者の環境まで障害者をとりまく状況を丁寧にレポートしている。福祉の専門家らしく各施設のスタッフ数や勤務時間など細かく記載されている。どのような制度とその実践によって、具体的にどんなシステムで運用されているのか、こまやかな解説と関係する法律や参考図書情報などによって背景にある制度や歴史、成り立ちなどがよくわかるようになっている。

読んでいると、著者の中に北欧と日本の現実の比較が絶えず起こっていることが感じられる。日本はどうなんだという問いが重低音のようにいつも響いている。それが本書に深みを与え、単なる北欧の福祉礼賛の書物に終わっていない理由だ。

北欧の福祉制度に対する批判はあれど、国や経済やシステムの話は置いといて、考えたいのは、人が幸せに生活するために何が必要かという根本的な問いだ。

「日本の障害認定システムは『できなさ』に注目する。いつも『なにができないか』が問題だ。デンマークでは『必要なことは何か(ニーズ)』が最初にある」

まさに、その考え方が大きなポイント。そこでは一人ひとりの人生が大切にされ尊重されている。幸せに生きる権利がだれにもあるということが働くスタッフや市民に共有されていることがよくわかる。

衣食住以上に、創造することへの支援は福祉の大きな役割ではないか。私が美術家として障害者の表現活動をサポートする中で「表現することは人が生きることそのもの」と感じてきたことと重なってくる。

最後に、写真が素晴らしい。何が北欧で成し遂げられているのか、直感的にビジュアルを通して伝わってくるのだ。

(なかつがわひろあき 美術家、アートディレクター)