音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

障害者権利条約に基づく政府及びパラレル報告で求められること

ロン・マッカラム名誉教授
(オーストラリア名誉勲章受章者)

世界の障害者コミュニティは、2014年1月20日に日本が障害者権利条約を批准した際、歓喜しました。これにより、特にアジア太平洋地域で大きな影響力を持つ日本が、157か国(2015年8月1日現在)の条約批准国に仲間入りしたわけです。日本では、同条約第45条第1項に基づき、批准から30日後の2014年2月19日に条約が発効しました。

条約批准に向けて政府を説得してきた日本の障害者コミュニティの皆様にも、心からの祝福を申し上げます。

私は、2009年から2014年まで障害者権利委員会(以下、委員会)の初代委員として、また2010年から2013年までは委員長として、この条約が、いかにして世界中の障害者の生活を向上させてきたかを見守ってきました。条約を批准したことで、日本の障害者の日々の生活は間違いなく改善されるでしょう。

委員会は、批准国における条約実施を監視します。これは、締約国による委員会への報告提出を通じて行われます。第35条第1項に基づき、締約国は条約発効から2年後に第1回の報告を提出しなければなりません。日本の場合、これは2016年2月になります。

政府及びパラレル報告の作成について、私が皆様にお伝えしたいことは次の3点です。

優れた政府報告とは?

第35条第1項に基づき、各締約国の第1回の報告は、「…この条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告」でなければなりません。第1回の報告は60ページ以内とされていますが、統計資料は追加できます。私見ですが、第1回の報告では、第1条から第33条までの各条文について国内で達成されたこと、また不十分なことの両方を、正直に詳述しなければなりません。しかし、この報告の仕組みに関わった経験から申し上げれば、いくつかの条文については、障害者の生活への影響を考慮し、より詳しい検討が必要となります。

  • 第5条では、障害者への差別を禁止する法律の制定を各国に義務付けています。この措置は、差別の強い否定を義務付けているこの条約の要です。
  • 第9条は、建物、輸送機関及び情報の利用の容易さ(アクセシビリティ)に関する条文です。利用の容易さは、多くの障害者の生活に欠かせません。
  • 第12条では、まさに条約の核心である法的能力を取り上げています。すべての障害者はその人権を有意義に行使するために、完全な法的能力を必要としているからです。
  • 第6条、7条及び16条は、障害のある女性、少女及び少年に関連した条文です。委員会は、障害のある女性、少女及び少年の生活に、深い、変わらぬ関心を寄せています。ほとんどの報告国で、特に弱い立場にあるのがこれらの人々なのです。とりわけ、女性と少女に対する性的暴力を含む暴力は、世界中で常に問題となっています(第16条参照)。
  • 第19条は、障害者が地域社会で生活する権利を認めている点で重要です。ほとんどの国は、大規模な施設を廃止し、障害者が地域社会で生活するためのプログラムを設けています。
  • 第24条は、障害のある少年少女がインクルーシブな教育を受ける権利を定めており、重要な意味を持っています。

政府報告の作成で求められること

第1回の報告は、各締約国に、国内の法律と慣習を条約に即したものとするために講じてきた措置を評価する機会を提供します。さらに締約国は、条約で定められている権利を実現するために障害者によってなされた進歩を監視する義務を負っています。また、いかなる不備も認めなければなりません。特に強調しておきたいのは、第1回の報告作成に当たり、批准国は障害者及びその代表団体と協議しなければならないということです。そして、そうした協議がどのように行われたかを明記する必要があります。

パラレル報告の作成で留意すべきこと

障害者団体によるパラレル報告は、報告プロセスに不可欠な要素です。それは、各報告国で障害とともに暮らしている人々の生活がどのようなものかを知る別の視点を委員会に提供してくれます。パラレル報告の主たる目的は、国内の障害者の暮らしぶりを説明し、彼らが条約で定められている権利を行使する際に遭遇する困難を詳しく語ることです。

私の経験から申し上げれば、パラレル報告作成者は33の条文を逐一検討するのではなく、障害者が直面している重要な問題とそれが日常生活に与える影響に焦点を絞るべきでしょう。国内の法律と政策の不備をすべて、一つ一つ挙げなければなりません。

第1回の政府報告とパラレル報告の作成は、政府と障害者団体に、条約実施と障害者の生活の向上においてなされた進歩を評価する機会となります。私のメッセージが、日本における条約の報告プロセスに何らかの光を投ずることができれば幸いです。