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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

正直な報告

佐藤聡

マッカラム氏の言葉

国連障害者権利委員会前委員長のロン・マッカラム氏の言葉が、私はとても心に残っている。5月に内閣府が招いて第21回障害者政策委員会でご講演いただいたのだが、その前後にJDFとの意見交換の場も設けてくださった。ここで会場から「どのような報告が良い報告で、どのような報告が悪い報告なのか?」という質問がでた。マッカラム氏は躊躇(ちゅうちょ)なく「HONEST(正直)」と答えられた。「何ができて、何ができていないのかを正直に書いた報告が良い報告です。やったことばかりを書き連ねているのは悪い報告。その国の障害者がどのくらい障害のない子どもと同じ学校に行けているのか、同じ職場で働けているのか、そういうことが分かる報告が良い報告です」という趣旨のことを言われたのだ。さらに、もう一点あげられたのは、「完成までに障害者団体、市民社会とのやりとりを行なってきているもの」ということであった。なるほど、私たちが目指すものはこれなんだなと、明確にゴールを示していただいた。

政府報告への期待

政府報告で重要なことは客観的なデータを示すことだ。この国の障害者がどのような状況に置かれているのかをデータで示すことは、他の国の人から見て分かりやすいし、比較もできる。どの分野が遅れており、どの分野が進んでいるのかを整理できれば施策の改善にもつなげられる。

障害者政策委員会では、第1回政府報告書作成に向けて、第3次障害者基本計画の実施状況のモニタリングを進めているのだが、客観的なデータが意外に少ないことに気がついた。たとえば、障害者の就業者数といっても、性別ではデータがない。障害女性の複合差別については権利条約第6条にも書かれているとおり、明確な問題意識があり、建設的対話(いわゆる審査)では、必ず複数の委員が指摘する重要課題である。しかし、性別のデータがないために、どのくらい進んでいるのか、遅れているのかが分からない。教育に関しても、同じ場で教育を受けられているのか、雇用労働についても雇用率だけではなく、労働者人口のうち障害をもつ人がどのくらい、どのような労働の場で働けているのか、ということを明確にすることが必要である。第1回報告だけに限らず、将来を見据えてデータを整理し、集積を進めることが必要である。

パラレルレポート作成に向けて

私はJDFからの派遣で、2014年9月にジュネーブで開かれた第12回障害者権利委員会を傍聴させていただいた。ニュージーランドと韓国の建設的対話を傍聴できたのだが、印象的だったのは、お昼休みに開かれたプライベート国別ブリーフィングであった。それぞれの国の障害者たちがパラレルレポートを作成し、それに基づいて自国の障害者の状況を委員に直接説明し、意見交換をするのだ。1時間程度しかないため、プレゼンテーションが30分、委員からの質疑が30分という構成だった。10人~20人程度の障害者が席に並び、統率のとれた司会ぶりで、非常にコンパクトに、明確に問題点を訴えていたのに驚いた。なんでこんなに上手にできるんだろうと思ったら、国際障害同盟(IDA)のビクトリア・リーさんが発表をサポートしているということであった。

詳しく聞いてみると、事前に報告書のまとめ方や発表の仕方をレクチャーし、前日には時間を計ってリハーサルをしているということであった。どの国の人もたくさんの課題を話したがる。しかし、それでは伝わらない。重要な課題を絞ってアピールすることが大切だというのである。

リーさんがいつも言うのは「あなたの国の重要課題を5つ上げてください」「その5つに優先順位をつけてください」ということだった。これは正直厳しい。どの国にもいろんな障害の人がいて、それぞれに課題を抱えており、それを五つに絞って、さらに順位をつけるというのは障害者団体の関係がしっかりできていないとやれないことだ。これを私たち日本もやらなければならない。前向きな努力を積み重ねて、より強い絆をつくることがパラレルレポート作成には不可欠なのだ。

韓国のパラレルレポート作成の取り組みは非常に評価が高かった。6年前から取り組みがスタートし、2年前にはより多くの団体を巻き込んで「報告書連帯」を立ち上げ、6つのワーキング・グループを作って議論を重ねてきたそうだ。注目すべきは、障害者団体だけでなく、女性や子どもの団体までも巻き込んだ組織づくりである。日本の審査は2018年か2019年頃になる見込みだが、そろそろパラレルレポート作成に向けての組織づくりに取りかからねばならない。まずは、今秋に韓国の報告書連帯の方を招いて、パラレルレポート作成の学習会を企画している。

まとめ

政府報告とパラレルレポートは何のために作るのか?それは、日本の障害者施策を良くするためである。4年ごとに成果を振り返り、まとめることによって、どの施策が進まないのか、どのような課題があるのかを整理し、共通の認識を作ることによって、次の取り組みにつながるのである。

マッカラム氏が言われていた「良い政府報告は、正直な報告、障害者団体とやりとりをして作ったもの」というアドバイスを肝に銘じて、日本政府には、障害者政策委員会での丁寧な議論とともに、JDFなど障害者団体との意見交換の場も設けていただきたい。その積み重ねが、権利条約の理念を日本で実現させることになるのだと思う。

(さとうさとし DPI日本会議事務局長)