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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

障害者権利条約パラレルレポートは

山本眞理

政府報告書?

障害者政策委員会に政府報告書の目次が出されているが、精神障害者としてもっとも問題と考えるのは、強制入院制度・強制医療制度に対する問題意識のなさである。権利条約第14条については、医療観察法及び精神保健福祉法はあげられていない。第15条及び第17条についても強制医療を巡っての問題意識はなく、これら2つの法律は触れられていない。第21条についても同様であり、精神保健福祉法による表現の自由の剥奪(はくだつ)、精神病院での通信面会制限について問題にされていない。

法制度の運用実態について言えば、精神障害者に関しては統計がない問題が多々ある。たとえば「OECD医療の質レビュー 日本 スタンダードの引き上げ 評価と提言 2014年11月5日」は、日本の精神医療の評価にあたって、以下の統計がないことを指摘している。入院患者の自殺、退院後の自殺、統合失調症または双極性障害による再入院、統合失調症または双極性障害を有する患者の超過死亡率。また、調べようとすれば既存の記録から出てくるはずの身体拘束や隔離について、期間別分布、疾病別の統計、措置入院から医療保護入院へと切り替わっている数値、なども明らかになっていない。

精神病院の処遇については、小遣い銭管理料など医療保険外の負担がどの程度となっているか、携帯電話(現代では通信の権利確保として必須である)が持ち込めているかなども重要な点であろうが、これらについても明らかにされていない。来年2月の報告書作成には間に合わないであろうが、これらについては審査までに統計を揃えることを求めていきたい。

なお、障害者政策委員会が国内監視機関というのであれば、障害者政策委員会としてパラレルレポートを作成提出するのもまた一案であろう。国内人権機関がない日本ではそうあるべきと考える。

パラレルレポート何がポイントか

政府報告書においては、おそらく実態にほとんど触れられないだろうから、精神障害者団体としては、報告差別と虐待拷問の実態報告が重要となる。

障害者権利委員会は、明確に強制入院制度・強制医療制度を禁止する立場で勧告することは明白であるが、それにしても論外の収容所大国の日本、さらにその収容を強化しようとする方向、とりわけ医療観察法については障害者権利条約に全く逆行しているし、後見人制度についても促進という方針をとっている日本は、まずその方向性を転換し、予算配分も含めたベクトル転換が必要である。

また、地域での支援・医療についても、榎本クリニックが生活保護受給者を対象に囲い込み、生活保護費を取り上げ管理していた例が典型であるが、地域精神医療保健福祉体制として、精神障害者の自律・自立生活に逆行した実態があることを問題にしていかなければならない。退院はしたものの、精神病院のデイケア・ナイトケアで1日10時間精神病院にいるという実態は決して珍しくない。

単に予算配分を精神病院から地域へでは、むしろ地域での監視管理体制、地域の精神病院開放病棟化が進むだけであり、これはいわゆる精神障害者福祉保健についても同様で、専門職による管理監視をこれ以上強化されてはたまらない。

1人の市民として、障害者型のものと平等に地域で自律・自立生活を送っていくことは、権利条約の要請であることはあらためて言うまでもない。私たちが求めるものは所得保障であり、そしてアドボカシーである。ピアアドボケイトも一般的な権利擁護システムも欠落していることは重大問題であり、この辺りが運用実態暴露の鍵となるであろう。

私たちはまず人間であり、ピープルファーストの原則こそが、私たちの求めるものである。これらの問題を解決していくためには、精神障害者がイニシアチブを取る改革に向けたテーブルが必須であるが、これに関しても政策は逆方向にいっている。障害者政策委員会からの知的障害者・精神障害者の排除は典型であるが、実効性のある意思決定過程への精神障害者の参加、参加というのは呼ばれることではなく、私たち自身が主催する場に関係者を呼び、方針決定することである。

私たち抜きに私たちのことが決定されている実態暴露は、ことのほか重要である。技術的には、今までの他の人権条約体で問題にされたこと、さらに、今までの障害者権利委員会の勧告の精査とそれに向けた準備が重要となる。幸い、私たちには世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク、そして国際障害同盟がある。これらとの緊密な連携の上で、パラレルレポートを準備していかなければならない。同時に体験者自身の証言もまた重要で、これらを集めていく作業も同時並行で必要である。

権利条約の報告書審査は、委員会の事情により、2回目の報告書はパスということになっているし、最初の報告書審査は特に重要であり、綿密な準備作業が求められている。私たちの作った権利条約を生かしていくために、私たちの世代の最後の仕事としてパラレルレポート作成に取り組みたい。

(やまもとまり 全国「精神病」者集団)


以下の文献は、必読として推薦したい。

*国連人権高等弁務官事務所(著)、ヒューマンライツ・ナウ他(翻訳)『市民社会向けハンドブック―国連人権プログラムを活用する』信山社(2011年10月1日)

*基調講演「障害者権利条約の批准と締約国の責務について」ヴィクトリア・リー(国際障害同盟(IDA))2013年12月4日(水)JDF全国フォーラム
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/rightafter/131204_JDF/vlee/vlee.html