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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

3.11復興に向かって私たちは、今

震災から4年の歩み
~私を繋(つな)いできたもの~

小山賢一

私は、弱視難聴の盲ろう者です。右目は光だけ感じる程度で、左目は視野狭窄があり、わずかに見える部分がありますが、日常生活では、文字の読み書きは困難です。慣れた場所、白杖歩行訓練を受けた場所以外での単独歩行はできないため、移動時は手引きガイドが必要です。

また、両耳共に感音性難聴で、近くでの一対一の会話は何とかできても、少し離れたり、雑音がある環境、複数の人がいる環境では聞き取れなくなります。声の質、高さ、話す速さ、話し方次第で、音としては認識できても言葉として聞き分けるのが難しいことがあります。

盲ろう者は、目と耳の両方に障害を併せもつため、移動、コミュニケーション、情報入手に困難があります。見え方、聞こえ方の障害の程度もコミュニケーション方法も情報受信能力も支援のニーズも一人ひとり違います。

東日本大震災発生からの歩み

2011年3月11日、東日本大震災の大津波から、間一髪、家族の迎えで高台に避難できて、命を繋ぐことができました。家族が無事だったことが何より幸いでしたが、自宅はコンクリートの土台のみ残して全壊流失しました。震災発生翌日の地域の光景は、まるで戦争で爆撃を受けたような無惨な状況で、私が見えなくても感覚で移動できた環境も失ってしまいました。

盲ろう者として、避難所生活で大変だったことは、広いフロアでの共同生活は、空間認識が難しく、一人では移動ができなかったことです。トイレに自由に行けなかったことが、とても大変でした。周囲の状況が分からず、何か手伝いが必要な時、声をかけにくい時もあり、1日、その場で座ったままの生活も大変でした。また、障害者であることで周囲に気をつけていただいている分、プライベートな空間がないため、常に誰かに見られている感覚が、何とも言えませんでした。

約2か月半に及ぶ避難所生活後は、みなし仮設の空き家を借りて、家族と一緒に暮らしています。新しい環境では、歩道がない道路で、感覚だけでは庭先から外へ一人で出ることが困難になりました。家の中の環境認知にも、かなり時間がかかりました。このまま動けない状態ではいけないと思い、見えにくいながらも操作ができた携帯電話のインターネットで情報を検索しました。すると、仙台市に中途視覚障害者支援団体「アイサポート仙台」があることがわかりました。私は勇気をもって「アイサポート仙台」を訪問しました。そこで、障害者手帳のこと、視覚障害者が利用できる福祉サービスや福祉機器があること、視覚障害者向けのさまざまな訓練があることも教えてもらいました。寄宿舎に入り、パソコンの職業訓練を受けている約半年の間に、日本盲導犬協会の白杖歩行訓練や盲導犬歩行体験をしたり、視覚障害者情報センターで点字訓練を受けたり、情報機器に触れたり、できることが増えていく喜びも実感しました。

盲ろう者と通訳・介助員との出会い

点字訓練に通ううちに、難聴で聞き取りが悪いため、音声情報が正しく受けられない私に、点字指導員が「みやぎ盲ろう児・者友の会」を紹介してくれました。そこで、宮城にも私と同じように目と耳の両方に不自由を抱える盲ろう者がいること、移動とコミュニケーション、情報支援をする通訳・介助員がいることを知りました。

初めて音声通訳で情報保障を受けた時の感動は、忘れられません。いかに自分が周囲の会話を聞き取れていなかったか、また視覚・聴覚から情報が得られていなかったか、そして、きちんと情報が入れば、自分で考えて動くことができることを実感しました。話し手の音声発信を音声で通訳したり、盲ろう者には、入りにくい視覚・聴覚からの情報、周囲の状況説明、移動ガイドの支援もしていただいて、世界が変わりました。

現在、交通の便が悪い僻地から、交通機関と繋がる場所までは家族の協力を得て、そこから先は、行政サービス等も利用して就職活動や盲ろう者をはじめ障害者の社会参加と自立を目指し、仲間と共に精力的に活動しています。被災地も障害者もまだまだ復興途上で、ニーズに合わせた支援が必要です。

今後に向けての課題と希望

東日本大震災で多くのものを失い、環境の激変で動けなくなった私と社会を繋いだきっかけは、たった一つの情報でした。そこから、いろんな人と情報とものが次々と繋がり、動けるようになってきました。一方で、自力で情報を取得できない、外に出られない盲ろう者は、まだまだたくさんいると思います。そうした方々と社会、必要な支援、情報を繋ぐためにも、行政と関係機関、団体の連携、情報周知は不可欠と考えます。それぞれの障害に合わせた情報取得支援機器、情報機器訓練などの支援拡充、交通が不便な地域への移動手段確保などが求められます。また、盲ろう者向け通訳・介助員派遣サービスの地域格差も大きく、どの地域に住んでも必要な時に必要な支援を受けられるよう事業の拡充も願っています。そして新しく施設や環境を整備する際は、盲ろう者が利用しやすいデザイン、設備を取り入れるよう当事者のニーズや意見を直接聞いて整備が進むことを望みます。

障害者がイキイキと社会で動き、活躍する社会を目指して、みんなで繋ごう、支援の輪!

(おやまけんいち みやぎ盲ろう児・者友の会)