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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

時代を読む72

補装具の中で初めて手動車いすにJIS規格が制定された

海外のスポーツ大会などを通じて日本の車いすの遅れを関係者が認識し始めてきていた頃の、昭和39(1964)年に東京パラリンピックが開催された。大会で使用された海外選手の車いすが刺激となり、国内の車いすメーカーは5社から10社へと倍増し、車いすの生産も増加していった。

国の委託により昭和43(1968)年、手動車いすのJIS規格作成委員会が立ち上げられ作業が開始した。昭和46(1971)年2月に補装具の中では、最初に手動車いすのJIS T9201(大型)及びJIS T9202(小型)が制定された。当時の車いすは大型で重量も重く、強度・耐久性も不十分であり、フレームが折れる、キャスタが壊れるなど問題点も多かった。その後、車いすの製作技術も向上してくる中、昭和49(1974)年よりJIS改正のための基礎資料を得るため内外の手動車いすを集め、車いすユーザーの山田昭義氏(現・AJU自立の家専務理事)に被験者をお願いし、応力測定などのデータ収集を行なったことが甦る。こうして、昭和52(1977)年、従来の大型、小型を廃止し、大型・中型・小型に分類した手動車いすのJIS T9201として改正されたのである。同時に、電動車いすの規格JIS T9203もこの年に制定された。その後、数度の改正が行われ、各種の機種も生産されてきたことから、型式分類も規定された。さらに、車いすISO国際会議にも日本が参加し始め、平成8(1996)年には日本で初めて犬山市にて車いすISO国際会議が開催された。

車いすのISO規格が制定されるにつれて、JISにもISOの試験規格などが導入されてきている。規格は制定すれば完了ではなく、規格に基づいた試験を行う必要がある。それらを試験する設備などの整備は不十分であったが、関係者の努力により少しずつ整っていった。平成20(2008)年には工業標準化法が改正され「新JISマーク制度」が施行された。それまでJIS規格はあっても車いすにはJISマークは貼れなかったのであるが、認証を受けることによってJISマークが表示できるようになったのである。

補装具の中では、最初に手動車いすのJIS規格が制定された意義は大きく、いち早く製品の向上が図られ、ユーザーの活動範囲の拡大や生活向上をもたらした。今や生活用具の一部にまでなった車いすは、今後も多くの機能を持った機種も開発されていくであろう。同時に、ユーザーが安心して使用できるようにしていかなければならない。JIS規格も車いすの発展や利用環境の変化に伴って改正され進化していくべきものである。

(高橋義信(たかはしよしのぶ) 新潟医療福祉大学非常勤講師)