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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

障害当事者からの意見

コミュニケーション支援の最前線

中橋道紀

福祉からスタートした聴覚障害者のコミュニケーション保障の施策。「いつでもどこでも情報アクセス・コミュニケーションの保障が受けられる社会を目指す」という考え方は、全日本ろうあ連盟(以下、連盟)創立から変わらない。連盟は労働、教育等と分野を広げてコミュニケーション保障を求めて奔走してきた。70年近くを経て、今その積み重ねが活(い)きようとしている。

聴覚障害者に対するコミュニケーション保障施策が昭和45年にスタートして以来、聴覚障害者の願いは健聴者への橋渡しとなる手話通訳者の育成であった。紆余曲折を経て現在は、厚生労働省カリキュラムに基づく手話奉仕員及び手話通訳者養成事業、そして意思疎通支援事業の実施に至っている。

しかし、聴覚障害者のコミュニケーション保障の施策は現在、大きな曲がり角に差し掛かっている。地域では専門性の増す手話通訳者養成に対応できる指導者の確保が難しく、養成事業の運営に苦慮している。また、社会保障審議会障害者部会では、福祉予算の圧迫から障害者総合支援法における意思疎通支援事業の見直しが迫られている。

障害者権利条約批准の追い風で障害者は「権利」の獲得に目覚め、声を上げている。聴覚障害者も例外でなく、「手話は言語である」という認識を踏まえ、これまでの「手話通訳をお願いする」という視点から「権利として手話及び手話通訳を使う」といった考え方に転換しつつある。

2013年に制定された障害者差別解消法では、基本方針に意思疎通支援の配慮を合理的配慮の一例として挙げている。ようやくすべての分野で意思疎通支援が受けられる道が開かれた。

現在、障害者差別解消法に基づいた各省の対応指針、対応要領のパブリックコメントが始まっている。これらの中に障害者の「アクセシビリティ」に対する考えを、どれだけ含められるかが重要であり、連盟は手話及び手話通訳の保障の明記を求めて意見を出す行動を展開している。

折しも連盟は、手話言語法制定推進運動に取り組んでおり、自治体の議会の99.4%(2015年9月9日現在)が制定を求める意見書を採択している。

いつでもどこでも手話通訳を依頼したい、手話でコミュニケーションをしたいというろう者の長年の思いと、絶え間のない権利を保障するためにも、情報コミュニケーション法、手話言語法の制定が急がれる。

(なかはしみちのり (一財)全日本ろうあ連盟理事)