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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

フォーラム2015

障害者は住まいを選択できているか

糟谷佐紀

1 はじめに

最近、脱法シェアハウスや簡易宿泊所の火事など、貧困を背景とした住宅困窮に関するニュースが多い。一方で、全国の空き家率は13.5%であるという。住宅の需給バランスが崩れている。東日本大震災の被災地では、住宅だけでなく地域社会まで奪われた人々の住まいがいまだ安定していない。住宅は、生活基盤を支えるハコであるとともに、貧困、超高齢社会、震災復興などさまざまな社会問題を映し出すカガミでもある。本稿では、障害者の実態を公的統計により把握した上で、障害者の住宅に関する問題提起を試みたい。

2 障害者と高齢化

日本の障害者人口は増加している。ここでは、障害者を高齢化という視点からみる。公的統計から障害種別による高齢化の推移を示す(図1)。1995年以降、身体障害者の高齢化は顕著となり、高齢と非高齢の数が逆転する。1995年は日本が高齢社会と言われるようになった年である(1995年の高齢化率14.6%)。高齢身体障害者の増加は、障害者の高齢化だけではなく、高齢期を迎えてから身体障害となる人の増加も大きな要因と考える。2011年の身体障害者の高齢化率は69.2%であり、日本の高齢化率(23.2%)の約3倍であった。非高齢障害者を見ると、精神障害者の増加が顕著であり、2000年以降、身体障害者を抜いて最も多い。

図1 障害種別による高齢化の様子(在宅障害者) 1)(単位:万人)
図1 障害種別による高齢化の様子(在宅障害者)拡大図・テキスト

3 障害者を対象とした住宅政策

戦後日本の住宅政策は、住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)、日本住宅公団(現・UR都市機構)、公営住宅の「三本の柱」を中心とした2)。先の二つは、標準世帯(外で稼ぐ夫、専業主婦と子)に対する持ち家施策である。日本の持ち家率は2013年度において61.3%、高齢者のいる世帯だけをみると82.7%とさらに高い。戦後日本の経済成長は、持ち家取得を下支えとしてきた。

一方で、障害者に対する住宅政策はほとんどみられない。公営住宅への障害者の入居を認めたことが唯一の施策である。障害者に対する公営住宅への入居は1967年に認められたが(公営住宅法は1951年に成立)、入居対象は、障害者(身体障害者のみ)のいる世帯に限られた。これは障害者本人ではなく、障害者家族への支援である。1980年に身体障害者の単身入居が認められたが、常時介助を要する者は除かれた。重度身体障害者、知的・精神障害者の単身入居が認められたのは、それぞれ2000年、2005年のことである。

公営住宅の供給が十分であれば、この住宅政策も評価できる。しかし、日本の公営住宅戸数は住宅全体の3.8%と非常に少ない(2013年土地・統計調査)。これは障害者だけではなく、持ち家取得のできない人々に対する住宅政策が残余的であることを示している。最近は、非正規雇用の増加などから低所得世帯が多く、公営住宅を求める人は増加している。利便性の高い公営住宅の応募倍率は100を超えることもある。障害者の優先枠があっても当選は容易ではない。

4 どこに誰と暮らしているのか

障害者全体の持ち家率は79.0%(自分の持ち家47.9%、家族の持ち家31.1%)と非常に高い(図2)。さらに、高齢、非高齢でみると、高齢障害者は84.7%(61.2%、23.5%)、非高齢障害者は70.7%(28.6%、42.1%)と、高齢障害者の持ち家率は非常に高い。そのほとんどは身体障害者である。障害別にみると、身体82.1%(54.7%、27.4%)、知的68.2%(14.8%、53.4%)、精神63.1%(26.4%、36.7%)と違いは明らかである。特に、知的障害者は家族の持ち家に暮らす率が他の障害よりも高い。

図2 在宅障害者の住まい3)
図2 在宅障害者の住まい拡大図・テキスト

身体障害者は、身体機能に適合した住環境整備が必要となる場合が多い。復旧が困難な大規模整備が必要な場合、持ち家を取得せざるを得ない状況となる。一方、賃貸住宅に暮らす身体障害者は、身体機能に不適合な環境において生活せざるを得ない状況もある。精神障害者の民間賃貸住宅の割合は高いが、家主の入居拒否や近隣からの反対も多い。住宅取得が困難なため、家主や近隣に障害を隠して入居することもあるという。

次に、障害種別による非高齢障害者の同居の状況を示す(図3)。複数回答のため、単純比較はできないが、知的・精神障害者に親との同居が多いことは顕著である。「親の持ち家で親と暮らす」障害者が多く、住まいだけでなく生活上の支援も親から受けている実態がある。しかし、親の高齢化、死去などにより、その継続可能性は低い。住宅の維持費も大きな負担となる。

図3 同居の状況(非高齢障害者)(複数回答)4)(単位:人)
図3 同居の状況(非高齢障害者)(複数回答)拡大図・テキスト

今回のデータに施設入所や入院者は含まれていない。しかし、精神障害者約30万人、知的障害者約10万人が施設や病院で暮らす現実も忘れてはならない。

5 より多くの住宅選択肢を

住宅困窮は日本全体の課題である。その中でも住宅に求める条件の多い障害者は、特に住宅困窮の程度が高い。バリアフリーなどの物的環境、不安定な経済状況、生活を維持するための福祉や医療サービス、買い物などの利便性の高い立地条件など、これらの条件を満たす住宅の入手が容易ではないことは、誰の目にも明らかである。

障害者はマイノリティであり、その状況は複雑で多様である。マイノリティである障害者が安定した住宅を得られているか、希望する住宅を選択できているか、ここから日本社会の態度を知ることができる。

2014年に批准した障害者権利条約に「居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと。」(第19条)とある。これは、憲法第22条の居住・移動の自由と同義である。今の日本にこの自由はあるのだろうか。

障害者政策は、2002年より施設入所から地域移行へと大きく舵を切った。住宅は中心施策ではないが、取り組みは少しずつ始まっている。2007年、住宅セーフティーネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)が成立し、障害者は、低額所得者、被災者、高齢者と共に住宅確保要配慮者と定義された。さらに2013年、障害者総合支援法により、自立支援協議会を中心に住宅問題に取り組むことになった。これらの施策が、自立生活(独立世帯の形成という意味での)の推進を支援するだけでなく、施設入所や親との同居を含む多くの選択肢の中から、障害者自身が希望する住まいを選択できる状況を作り出せる施策であることを期待したい。今後の障害者の住宅政策に注目していきたい。

(かすやさき 神戸学院大学准教授)


1)【身体】厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(1970、1980、1987、1991、1996、2001、2006)、【療育】厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(1995、2000、2005)、 【精神】「患者調査」より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部が作成したものを使用(1999、2002、2005)
2011年は、3障害すべて厚生労働省「平成23年生活のしづらさなどに関する調査」、以上より筆者作成

2)平山洋介「住宅政策のどこが問題か〈持家社会〉の次を展望する」光文社新書、2009

3)国土交通省「平成25年度住宅・土地統計調査」と厚生労働省「平成23年生活のしづらさなどに関する調査」より筆者作成

4)厚生労働省「平成23年生活のしづらさなどに関する調査」より筆者作成