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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

ワールドナウ

ASEAN・日本「国際協力と障害」に関する高級実務者会合の開催

佐野竜平

ASEAN共同体の設立とAPCD

域内10か国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ラオス、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)で構成される東南アジア諸国連合(ASEAN)において、1.政治・安全保障、2.経済、3.社会・文化、の3つを柱とするASEAN共同体がまもなく設立される。タイ政府と日本政府が共同で設立したアジア太平洋障害者センター(APCD)は、2009年の王室財団への民営化後も、両政府との連携をベースに、引き続き同域内における活動を重視している。

本稿では、ASEAN共同体設立直前の動きを見据えて開催された「ASEAN・日本『国際協力と障害』に関する高級実務者会合」のポイントを報告する。

機会の宝庫であるASEAN

2015年8月31日、東京・灘尾ホールにおいて、タイAPCD、日本外務省、国際協力機構(JICA)の共催、ASEAN事務局、タイ外務省、タイ社会開発・人間安全保障省の協力、日ASEAN統合基金(JAIF)の支援により開催された本会合には、ASEAN各国の高級実務者(障害担当)、ASEAN事務局、日本政府関係者(外務省、厚生労働省、JICA)、日本障害フォーラム(JDF)関係者、国際協力を志す大学生等、150人を超える参加があった。

冒頭、テート・ブンナークAPCD理事会議長(元タイ外務大臣)により、日本政府への謝意が表明された後、国際機関であるタイAPCDならではの活動のユニークさが述べられた。

次いで、石兼公博外務省国際協力局長から、タイAPCD、ASEANおよび加盟各国政府、日本政府による「国際協力と障害」に関する国際協力活動の成果を振り返り、これまで培った知識・経験を土台にASEAN共同体構築を障害分野から支援する意向が示された。

また、藤井康弘厚生労働省障害保健福祉部長から、タイAPCDによる障害者団体の育成や地域ネットワークの構築に関する積極的な取り組みに触れた上で、ASEAN加盟国と日本における国際協力と障害に関する経験や知見共有、国際協力の将来展望に関する意見交換が極めて有意義であることが強調された。

なお、本会合の基調講演に登壇されたAKPモクタンASEAN事務局事務次長によって、ASEANが「機会の宝庫」であることを前提に、障害の有無を問わず、参加と恩恵を共有できる、インクルーシブで、持続可能な、活力のある、ダイナミックな共同体に向かっていくビジョンが示された。

APCD/JAIFプロジェクトの報告および日本政府によるプレゼンテーション

続いて、タイAPCDおよびASEAN各国から、APCD/JAIFプロジェクトの進捗および関連する活動が報告された。同プロジェクトにより、貧困削減を念頭にこれまでメコン川流域における約20の農村市場のアクセスが改善されてきたが、障害者のみならず、高齢者、児童、妊婦等コミュニティーのすべての住民に寄与していることが紹介された。また、本会合の場で、今後も同趣旨の活動を他の農村部で継続していく意向が、メコン川流域各国の政府参加者から示唆された。

一方、日本政府からは、藤井康弘厚生労働省障害保健福祉部長により、国内の障害者施策に関する包括的なプレゼンテーションが行われ、厚生労働省がこれまで培ってきた経験・知見の要点がASEAN各国の高級実務者との間で共有された。また、戸田隆夫JICA人間開発部長により、タイAPCDを立ち上げた技術協力プロジェクトの意義と成果、その後のタイAPCDとJICAによる連携活動の重要性に言及された他、JICAによるさまざまな障害と開発関連の活動紹介が行われた。

東京勧告の採択

本会合の後半は、岡庭健外務省国際協力局審議官・NGO担当大使、ジャクリット・スリバリタイ外務省ASEAN局長をモデレーター、AKPモクタンASEAN事務局事務次長をコメンテーターとして、2015年以降のASEAN地域における国際協力と障害に関する東京勧告についての議論が行われた(以下、抜粋、仮訳)。なお、本勧告は、本会合直後にマレーシアにて行われたASEAN社会福祉・開発担当会議を通じて、ASEAN各国が了承した正式な勧告の位置づけを得た。

採択された東京勧告
採択された東京勧告 拡大図・テキスト

(1)ASEAN各国と日本は、障害と開発分野における連携活動をより強固なものとすべく、ASEAN各国による障害者の権利擁護活動およびニーズに照らした新たな方策を模索すると同時に、コミュニティーに根付いたインクルーシブな開発の実現に向けて障害者の能力構築を進めていくこと。

(2)ASEAN各国において、障害の視点がきちんと織り込まれた上で法律や政策、サービス実施が展開されるよう、タイAPCDおよびJICAによる第三国研修の対象である新興の障害者グループを含む多様な障害者を巻き込んでいくこと。

(3)障害に配慮した上でASEAN各国と日本による人的交流を加速させ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、関連団体と相談した上で障害インクルーシブなスポーツを促進していくこと。

(4)メコン川流域で障害と開発に関して実施されているAPCD/JAIFプロジェクトをモデルとして、ASEAN統合に貢献し、また恩恵を受けるべく、障害者、高齢者、子ども、妊婦等、誰もが住みよい故郷を創生していくこと。

(5)障害児が障害のない児童と平等に教育の場にアクセスできるよう促進すること。

(6)障害者の権利と役割を守り促進するとともに、地域の平和、繁栄、持続可能な開発のためにASEANと日本の連結を高め、自由と民主主義と法、人間の尊厳に寄与すること。

(7)ASEANと日本における地域経済に関わるパートナーシップの交渉に積極的に携わり、日ASEAN10年間戦略的経済協力ロードマップ(2012~2022)に沿って、障害インクルーシブビジネスの実現に向けて労働と雇用における動きに協力していくこと。

(8)文化的な生活、レクリエーション、余暇およびスポーツに関する日本の経験とノウハウをASEAN各国と共有し、その活動交流を促進すること。

(9)ASEAN共同体ビジョン2025に寄与すべく、JICA、JAIF、国際交流基金等を通じてこれまで実施されてきた域内での日本の貢献を認知するとともに、障害インクルーシブなASEAN共同体の構築に向けて今後も引き続き連携していくこと。

タイおよび日本の知見・経験をベースに三角協力を推進へ

タイAPCDと日本政府による域内でのこうした連携活動は、日本政府から高く評価されている。本会合終了後に開催されたレセプションでは、タイAPCDを訪問されたこともある木村太郎内閣総理大臣補佐官から、APCDと日本政府による連携活動への前向きな評価を含む特別来賓挨拶があった。実際、テート・ブンナークAPCD理事会議長に対し、本年6月、日本政府より旭日重光章が授与された。

なお、本年はタイAPCDを後援しているシリントン王女殿下のご生誕60周年の記念年である。タイAPCDが中心となって、タイ社会開発・人間安全保障省、タイ外務省、日本外務省・在タイ日本大使館、JICA、タイ・ヤマザキ、タイ・ベバレッジ等が協働して、お祝いのセレモニーを実施することになっている。タイAPCDとしては、引き続き障害者およびその団体が中心的な役割を果たせるように促した上で、タイおよび日本政府との連携を深化させ、三角協力を推進していきたいと考えている。

(さのりゅうへい アジア太平洋障害者センター(APCD)ゼネラルマネージャー)


在タイ日本大使館による原稿執筆:ODAちょっといい話「アジア太平洋障害者センター(APCD)全ての『人』が輝ける世界を作る」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/hanashi/page23_000523.html