音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

列島縦断ネットワーキング【北海道】

障害・高齢の方たちが安心、優先して宿泊滞在できるホテルを目指して
~バリアフリーホテルあすなろの挑戦~

樋口英俊

法人概要

今年、当法人は開設25周年を迎えました。現在は、就労継続支援A型40人、B型180人、通所生活介護70人、地域生活242人となっています。開設当初40人の知的障害利用者から、北海道の人口8千人足らずの片田舎でなぜ8倍強の成長を遂げたのか?それは、就労支援の目標を「有益な就労内容を工夫し、より高額な作業工賃の保証」に定めたからです。利用者への工賃支給実績の月額平均は、26年度54,891円ですが(通所生活介護含む全員支給)、なかでもヒット商品「災害備蓄用パン」製造科は、27年度は月額平均15万円を達成し、国内ではトップクラスと思います。

地域の高等養護学校卒業後の進路先として、毎年平均15人の採用を行なっています。入所施設偏重から脱却して、就労支援の充実と地域生活の質の向上を連携させていることなどが、利用希望者が多い理由と考えています。

完全バリアフリーホテルの誕生

今年4月21日に「バリアフリーホテルあすなろ」がオープンしました。完全バリアフリーのホテルとして、すべての人に上質な旅を提供することを目指しています。当ホテルの前身は、民間化粧品会社の会員対象の美容ホテルでしたが、所期の目的を果たしたことから当法人が無償譲渡を受けました。オープンにあたり、ハード、ソフトの両面において完全バリアフリーのホテルに徹底改装しました。

就労継続支援A型の事業認可でホテル事業を実施しているのは道内初で、全国でも4か所目です。スタッフは、職員11人、利用者20人の構成です。

バリアフリーホテル開設の経緯

数年前、当法人の旅行で利用者が夜尿失禁をして布団を汚してしまい、クリーニング代として5,000円を請求されました。ホテルは障害者のほか、子どもや高齢者も利用します。ドローシーツ使用などの気遣いがあれば、利用者が安心して楽しく旅行ができるのに、という思いが残りました。

また一般的に知的障害者の就労は、製造業や肉体労働を中心としたブルーカラー的業務に従事している例が多いですが、知的障害のある人たちもYシャツやブラウスにネクタイやリボンをつけ、スーツに身を包みお客さまにサービスを提供するホワイトカラー的業務ができないか、障害があっても、適正や訓練によってピア二ストやコックなどの専門職に就くことができるのではないか、という思いで今までの考えを変革し、新しいホテル業務への挑戦を目指しています。

来年3月に待望の北海道新幹線が開業します。飛行機に比べ新幹線は、車椅子等の乗車規制も緩和されていて、自分の車椅子で乗車できます。公共交通機関のバリアフリーの観点からも新幹線利用の期待感は高く、北海道にやって来る障害のある人たちが気軽に安心して利用できる施設をつくりたい、そんな思いでホテル開設に至りました。

ハード面のさまざまな工夫

ホテルの客室は、全29室、最大70人が宿泊できます。障害のある人や高齢者もすべての人が利用しやすいように、さまざまな工夫をしています。主な工夫は次のとおりです。

客室ドアはすべてカードキータイプで自動ドア、力の無い人や車椅子利用者などに配慮しています。

館内のフロアは、車椅子利用者や歩行障害の人を考慮して、関西空港のフロアと同等の硬質タイルカーペットを敷設し、スムーズな走行、歩行を確保しました。視覚障害者の歩行の手助けになるように、床面はタイルデザイン施工にしました。

トイレは40か所ありますが、すべて車椅子対応(うち4か所はオストメイト併設)です。温泉内湯、露天風呂、サウナ等は、専用の車椅子で利用できるようになっています。家族風呂には専用で入浴介護用移動リフトを完備しています。

ベッドや枕、デザイン壁画等に天然古代地層珪藻土(北海道稚内産)を採用して、天然素材による空気浄化や消臭、除湿等を行なっています。

全室に介護や介助を考慮して電動リクライニングベッドを設置しました。健常者にとっても読書やテレビの視聴などに便利であることを体験していただきたいと考えています。その他、非常避難(特に車椅子利用者)体制の機器設置と人的避難誘導体制の確立、建物全般の段差解消、車椅子動線確保、及び手すり等を設置しました。

心を込めたサービスの提供

より多くの方が気軽に利用できるように、料金設定を低価格(スタンダートタイプ1泊2食12,000円)にしています。食事は、本格中華フルコース(広東料理)をシティホテルと同等のケータリングサービスで、また朝食もセルフサービスではなく、スタッフがお客さまの席に食事を運ぶスタイルにしました。ダイニングで焼成したパンもその場で提供しています。サービスの提供は、障害者スタッフが中心となって行なっています。

温泉では日本海の海水を使用した「タラソテラピー」も楽しめます。その他のサービスとして、美容サービスも行なっています。利用する機会が少ない女性障害者に利用してもらうことを念頭に、エステやネイルアート、マッサージなどの美容メニューを充実させ、しかも低料金(一律3,000円)で施術体験できます。

車椅子昇降リフト付車両(定員45人、車椅子6台まで積載可能)を配備し、支援が必要な方や団体のお客様には無料送迎をしています。

障害当事者が活躍する職場

スタッフとして働く知的障害者は、フロント、ルーム清掃、ケータリングサービス、エステシャン、ピアニスト、コックなど、ホテル業務全般を担当しています。

なかでも、知的、発達障害のあるピアニストによるウェルカム、ディナー時の演奏はお客さまに大変好評です。また、本格中華(広東料理)フルコースのサービスでは、北京ダックをお客様の前でコック見習いの男性障害者スタッフが切り分け、同様にウエイトレスの女性障害者スタッフが調味して提供するパフォーマンスがよかったという声をいただいています。さらに、お客さまから介護業務(身体、入浴等)の要請があれば、資格を持った健常者スタッフと共に資格を持った障害者スタッフが必要に応じて従事しています。

当ホテルは、障害者を優先的に受け入れることをうたっています。しかしそれが「障害者専用」と思われているようですが、そうではありません。当ホテルを利用していただき、「バリアフリー」はすべての人にとって有用であることを認識、発見していただく場所になるのではないかと思っています。

今後の展望と期待

開業から早4か月が経過しました。おかげさまで、ご利用いただいた方々からの評価は、ハード面・ソフト面とも高い評価をいただいています。総じて、滑り出しは順調ですが、宿泊稼働率は40%台にとどまっています。今後、宿泊稼働率を高めていくには、知名度と来遊、宿泊するための目的と魅力づくり(滞在者を対象としたアクティビティメニューの創設や開発)が急務であると考えています。特に、来年の北海道新幹線開業がキーワードです。来る2020年東京オリンピック・パラリンピック開催前の事前合宿滞在等の意向調査にも手を挙げ、広く知名度も上げていきたいと考えています。

皆様のご来訪を節にお願い申し上げます。

(ひぐちひでとし 社会福祉法人江差福祉会理事長)


○バリアフリーホテルあすなろ
北海道爾志郡乙部町館浦494-1
TEL:0139-62-3344
FAX:0139-62-3333