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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

ほんの森

障害者権利条約とやどかりの里

やどかりの里45周年記念出版編集委員会編

評者 堀込真理子

やどかり出版
〒337-0026
さいたま市見沼区染谷1177-4
定価(本体1600円+税)
TEL 048-680-1891
FAX 048-680-1894
http://www.yadokarinosato.org./book/

45周年を迎えたやどかりの里は、1970年、精神病院を退院できない3人の患者さんの支援からスタートした。その後、事業は労働や生活の多岐にわたる支援に発展したが、「記録にない実践は実践にあらず」と、5年ごとの節目にその活動を記録し、将来ビジョンとあわせ出版を続けてきた。

本書は、そんなやどかりの里が、障害者権利条約(以下、権利条約)を物差 しに、自らの実践を一つ一つ照らし合わせながら軌跡をつづった渾身の記念誌である。

「1総論」では、やどかりの里の出発点から現在までの実践が語られる。この間の模索や転機は具体的で興味深い。開始まもなく一軒家を借り共同生活の場として中間宿舎を用意するも、「地域の中での施設化を招く」と1年で廃止しているのは印象的だ。中間の宿舎は、当時としては相当に本質的な動きだったと思うが、職員はこれを「他の者と平等」な暮らしとは考えていなかった。この理念こそが、間違いなく今日の「精神科病棟転換型居住系施設阻止」の大きなうねりに繋(つな)がっている。

「2検証」は、権利条約の視点から実践現場を点検する試行である。「社会的入院」、「相談支援」、「労働支援」等のキーポイントが権利条約に照らされる。合理的配慮の概念を初めて知り、「これは当たり前の権利だったのか」と目から鱗(うろこ)を落とす現場のスタッフの瑞々(みずみず)しく真摯な感性が魅力的だ。同時に、日々の地道な活動に懸命に権利条約の精神を引き寄せる姿勢にも敬服する。 

働くメンバーとご家族の思いは「座談会」の章で知ることができる。安心できる場所にたどり着くまで時間はかかったが、失った自信を働く中で少しずつ取り戻している語りにジンとくる。メンバーは皆、「支援してもらう」だけの人ではなく、自発的であり能動的だ。回復力は、援助される人とする人という固定化した関係性の中では発揮されないとはこのことか。

時が流れればニーズは変化し、組織も活動も見直しは必須だ。その中で変わらずに大事にしていくものは何なのか。やどかりの里は、その答えの調整に欠かせないものを「学習」と「実態を見る努力」、そして「見えたものを社会化する努力」と言う。移り変わる制度にともすれば支援を合わせがちだが、「制度がなくても、ニーズがあれば実践は始めるものだ」とも彼らは言う。

本書は、支援現場のすべての者にとっての学びの一冊であると同時に、温かい激励の書でもある。

(ほりごめまりこ 社会福祉法人東京コロニー職能開発室)