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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

そもそも「ファッション」って何だろう?

須藤シンジ

盲目的に信じることはよしとされないwikipediaによると、ファッションとは「ある時点において広く行われているスタイルや風習のことである。なかでも特に、人々の間で流行している服装を指すが、装いに関係する装身具、美容(理容、髪型、化粧)、香水などもファッションの範疇である。さらに広義には音楽などの文化やライフスタイルまでをも包括しうる。」とある。

服装だけでなく、ライフスタイル、すなわち暮らし方全般にそれが及ぶという考え方に私は賛成だ。

20年前、次男が脳性マヒで生まれて以来、わが家は福祉の行政サービスを受益する立場たる当事者になった。そこで知った、医療/療育/“優しさ”に満ち溢れた福祉の世界は、誤解を恐れずに言えば、それまでファッション産業に従事していた私にとって、地味で暗く、ダサく、閉じた世界だった。日本ではいまだ小学校から健常児と障害児の教室が分かれているように、精神的には社会から隔離隔絶されていると感じた。

仕事柄、海外に出向く機会が多いのだが、街中で洒落(しゃれ)た服装で1人車椅子を漕ぐ障害者たちを数多く目にした。翻って日本では、当時オシャレな障害者を見つけ出すことは困難だった。そもそも外見から障害者と分かる人物が「オシャレをして一人で積極的に行動する姿」=ライフスタイルを、日本ではほとんど見ることが無かった。

福祉の世界の関係者にそれを問うと、こんな答えが返ってきたものだ。何かあったらどうするの?介助の手が足りない…などなど。そこに見たのは、物理的なバリアではなく、むしろ意識や心のバリアだった。

それを生み出してきたのは、当事者を含む障害者の家族であり、福祉の従事者たちであるのではないかと感じた。

前述のとおり、「ファッション」とは服装のみならず習慣や暮らし方に及ぶ。中でも服装は「他者からどう見られるか」という視座を持ち得た時に初めてその欲求を立ち上げる。他者からの目線を意識した時、あるいはそれに触れる場に出る前提がある時に認識される視座であろう。

私たちは障害者と健常者双方にある意識や心のバリアを壊そうと考えた。

2002年から、世界中のトップクリエイターたちと13年間続けているソーシャルプロジェクトNEXTIDEVOLUTION(ネクスタイド・エヴォリューション)がそれである。(http://www.nextide.net

その活動を通じて「“心のバリアフリー”をクリエイティブに実現する思想や方法」を「ピープルデザイン」と定義した。2012年には、新たに街づくりのNPO(ピープルデザイン研究所http://www.peopledesign.or.jp)を渋谷に立上げ、同区や川崎市などの行政ともコラボレーションした活動を展開している。

また最近は、世界各国の教育機関と連携したフィールドにも、その領域を広げている。障害がある人も、当たり前に混ざりあっていることをよしとする「習慣」をファッションやイベントを通してメッセージし、その技術を伝える活動である。

開発したファッショナブルな商品やサービスは、都度、障害者の感じる不具合を解決する機能が含まれるものもあるが、その販売/提供対象は、あくまでもファッションに敏感な次世代に置いている。なかでもこれから父となり母となるであろう若者たちだ。売れるからこそ店頭に並ぶ。当然、ファッションという以上ターゲットを前提にした販路にはこだわる。福祉の文脈でそれらを扱わないのが特徴だ。

私たちがファッションを通して障害者に提示するのは、それらを“買うために街に出ておいでよ”という“動機”なのである。

必ずしも障害者が着れるものを作るわけではない。

当事者や家族が主体的に“街に出て”いきたくなるような「きっかけ」として、ファッションの「力」を「活用」したいと考えているのだ。

私たちは、障害者も健常者も混ざって当たり前なライフスタイルを、これからも“オシャレに”提案し続けていこうと思っている。

(すどうしんじ NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事)


注:本稿で「障害者」は、筆者の子息同様、車椅子利用を含む屋外での移動が可能な程度の等級の障害者手帳/療育手帳保有者を想定しています。