音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

車椅子ファッションブランド「ピロレーシング」

長屋宏和

車椅子ファッションの分野が存在しなかった10年前、私はなぜ、車椅子の生活になっただけで健常者だったころに着ていたお気に入りの洋服が着づらかったり着られない悩みを持って生活しなければいけないのかと疑問を持ちました。ズボンのお尻の部分のポケットやステッチが褥瘡(じょくそう)(床ずれ)の原因になったり、ファスナーの開きが浅くて導尿しづらかったりと、立った姿勢と座った車椅子の姿勢では、ズボンの形を変えなければ対応できないことに気が付きました。

母親が銀座三越でリフォームサロン「アトリエロングハウス」を経営する洋服のプロフェッショナルで、最初は自分のために30本以上のズボンで試行錯誤しました。満足いく形が出来上がったときに、「これは僕だけではなく、車椅子ユーザー全員に必要なこと」だと気が付き、2005年に車椅子ファッションブランド「ピロレーシング」を立ち上げ、最初はピーチスマイルジーンズの販売からスタートしました。

着やすさだけを追求した障害者向け洋服ではなく、車椅子ファッションブランド「ピロレーシング」では洋服のイメージを残し、障害に合わせて一人ひとりの悩みに合わせた洋服作りをコンセプトに販売とリフォームをさせていただいています。

ピーチスマイルジーンズは、ジーンズ世界一の生産地の岡山県児島で普通のジーンズを縫製している職人さんが、ピーチスマイルジーンズを縫製することで、見た目は普通のジーンズ、使い勝手は車椅子ユーザーに合わせた商品が実現しました。

車椅子の作成同様、洋服も既製品としてすべてを補うことは難しく、実際に使用するご本人の細かい悩みをハーフオーダーの形やリフォームで解決することで、その方の痒(かゆ)い所に手が届く商品となれると感じています。

車椅子に座っていたら必ず問題になるお尻の褥瘡は、ズボンのお尻部分の生地を1枚生地にする特許を取得し、褥瘡でお悩みの皆様に喜んでいただいています。お尻の圧分布測定器を使い、数値化して圧が分散されることも実証済みです。

ジーンズやチノパン、スーツ、留袖、振袖、浴衣やウエディングドレス等の販売、リフォーム、レンタルもさせていただいています。

「ピロレーシング」では洋服だけでなく、雨の日移動の必需アイテムの車椅子レインコートの作成、販売もさせていただいています。車椅子で雨の中を移動すると、両手でこぐので傘が差せません。脱ぎ着が楽な車椅子レインコートを探しても見つからず、試行錯誤をして作成しました。上から被(かぶ)るだけで脱ぎ着が楽で、前部分留(と)まりはマグネットを使用し、簡単に取り外しができます。素材も張りがあるビニール素材を使用することで風にもあおられにくく、ハサミなどでカットしてもほどけてきたりしないため、ご自身のご希望の長さに切ってご使用いただけます。

このピロレーシング車椅子レインコートは3万枚以上売り上げ、楽天ジャンルランキング1位を50週以上記録しています。パラリンピック車椅子選手全選手に提供させていただき、日本だけでなく、世界中の車椅子ユーザーから喜びのお言葉をいただいています。

「ピロレーシング」は銀座三越での店舗販売のほか、楽天、ヤフー、アマゾンでネット販売をさせていただき、各車椅子メーカーや販売店でも購入可能になりました。

車椅子レインコートは公的介護保険制度の助成金対象商品にも選ばれ、多くの皆様からのご要望で助成金が受けられる地域が増えたことで、手に取りやすくなりました。まだ、すべての都道府県が対象地区ではありませんが、ご利用者様の声で広がっていることは間違いありません。

2020年東京オリンピック・パラリンピックで海外から多くの車椅子ユーザーの皆さんがお越しになり、日本だけでなく、世界中の車椅子ユーザーの皆様に車椅子ファッションブランド「ピロレーシング」の商品を知って喜んでいただけたらうれしいです。もちろん、これまで同様、パラリンピック車椅子選手全員に提供させていただきますが、その他にも選手の皆様のサポートができることがあるのではと思っており、そのことが実現できたらと考えています。

今までになかったゼロからの物作りは時間も体力も使いますが、その商品を皆様に喜んでいただけるなんてこんな幸せなことはありません。これからも皆様に喜んでいただける商品を販売し続け、活動の場を広げ、男女かかわらず皆様に喜んでいただける「ピロレーシング」になれたらと思います。今後とも車椅子ファッションブランド「ピロレーシング」をよろしくお願い致します。

(ながやひろかず (株)アトリエロングハウス ピロレーシング代表)