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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

「ハンディが、チャームポイントに変わった日」
はるな愛プロデュース! バリアフリーファッションショー「バリコレ」リポート

河合理香

「目指すは、東京ガールズコレクション!“障害者のパリコレ”ならぬ“バリコレ”」を合い言葉に、去る9月12日(土)、大阪の中心地にある大型ファッションビル「グランフロント大阪」で、障害者のファッションショーが開催された。NHK大阪が主催なのに、敢えて「開催された」と書くのは、このファッションショーが、我々の手でというより日本中から集まった多くの参加者・賛同者によってこそ実現した、と痛感するからだ。参加したモデルやデザイン制作チームはもちろんのこと、ショーに協力してくれた各界のプロフェッショナルや企業などを合わせると、バリコレを創り上げた人たちは100人を下らない。ある意味、日本のファッション界史上最大の障害者ファッションショーだったのではないかと思う。

集まった観客は3000人以上。通りすがりに立ち止まってショーを見た人は、1万人を超えただろう。会場はビル1階吹き抜けスペースだったので、2階3階からも入れ替わり立ち替わり、鈴なりの人がショーを見下ろしていた。

観客の目を釘付(くぎづ)けにしたのは、全国から集まった30人あまりの障害者モデルたちだ。しかもその衣装の多くが、見たこともない奇抜なものだった。

今回の「バリコレ」の総合プロデューサー・はるな愛は、東京の名門デザイン専門学校・文化服装学院とタッグを組み、自ら「車いす一体化衣装」をデザインした。「車いすでは着物が着にくい」という当事者の声を聞いて、自前の豪華絢爛の打ち掛けを大改造!ドレスのように前にたらす花魁風(おいらんふう)の衣装を考え出した。華やかな帯を前結びするので、車いすに座りやすく華やかさも際立つ。さらに車いす全体に人力車風の装飾を施し、髪飾りに大きな折り鶴をあしらった。車いす込みで一つの衣装なのだ。はるなは言う。「今回のバリコレは、通りがかりの若者たちが、思わず「カッコイイ!私もあの車いすに乗りたい!」と立ち止まるショーにしたかった。車いす一体化衣装は車いすに乗ってこそカッコイイ。バリコレは、障害者が障害のない人に“今一番オシャレなファッション”を紹介するショー」だと。

また、東京コレクションにも参加しているデザイナー・鶴田能史は、重度障害者のシンボルともいえる人工呼吸器や胃ろうのチューブを、近未来ファッションに生まれ変わらせた。多発性硬化症の大橋グレースは、常に鼻とお腹につけているチューブをずっと疎ましく思っていた。それを鶴田は「カッコイイ」と言って、瞬く間に近未来的な衣装を考え出した。鶴田に車いすを押され登場したグレースは、そのまま宇宙へ旅立ちそうだった。

また福岡のデザイナーの鈴木綾は、「車いすだからこそセクシーに見えるドレス」を提案。車いすの人が通常見下ろされる場合が多いことに注目し、見えそうで見えない絶妙な胸元と足のスリットをデザインした。「いつも遠慮がちな全国の車いすの美女たちに、『私を見て』と思ってほしい」との思いだ。

その他にも「障害の悩みを服で解決したい」と、コミュニケーションが苦手な発達障害の子どもに、ユニークな仕掛けが飛び出す着ぐるみ服を創った小田桐智絵。「雪の多い北海道でワクワク外出できる」車いすファッションを提案した石切山祥子。「最も憂うつな雨の日を、アゲアゲ気分で街に出たい」と、街の注目を集めるべくマグロ型車いす用レインコートを創った大阪の若手チーム。その他、車いす丸ごとウエディングドレスにしてしまった特別な車いすドレス、男子学生チームが考え出した自分たちが着たい新郎衣装など、斬新な衣装が目白押し。デザイナーたちの熱い思いがひしひしと伝わってきた。

もう一つ印象的だったのは、モデルたちの鮮やかなモデルっぷりだ。今回のモデルは全員が障害者。小学生から会社員、パラリンピアンまで多彩なバックグラウンドだが、プロのモデルは一人もいない。簡単なリハーサルをしただけの彼ら彼女らが、当日ランウェイで見せた姿には度肝を抜かれた。初めてのランウェイを颯爽(さっそう)と進み、観客を見つめて微笑む。その姿はプロ顔負けどころか見ている観客の胸を揺さぶり、会場中を魅了した。そこには彼ら彼女らが日々心に抱いている「障害があろうがなかろうが、自分らしく生きる」という心意気が溢れ出ていた。彼女たちの生きざまがランウェイで花咲いたのだ。

これは私見だが、これまでの障害者のファッションは、「いかに健常者向けの洋服を同じように着こなすか」がゴールになっていたように思う。でも今、ハンディはチャームポイントだと心から思う。車いすや障害は発想の起爆剤になり、いくらでも新しいファッションを生み出せる。障害を隠すのではなくどんどん見せて、見る者も着る者も一緒に楽しんでしまえばいい。近い将来、障害者ファッションがすべてのファッションに、無限の可能性を与える存在になるだろうと感じた。ぜひ次回は、あなたがバリコレにご参加ください。

(かわいりか NHK大阪「バリバラ」チーフ・ディレクター)

はるな愛×バリバラ
バリアフリーファッションショー「バリコレ」

13:00~ 第1部 超バリアフリー

(車いすファッションなど)

14:30~ スペシャルステージ1

「切断ヴィーナスショー」

14:50~ 第2部 レイン&キッズファッション

16:00~ スペシャルステージ2

「関西レインボーフェスタショー」

16:20~ 第3部 ウエディング