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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

ユーザーと企業を結ぶ国リハコレクション

小野栄一

1 はじめに

著者の所属する国立障害者リハビリテーションセンターは、国立で唯一の障害者リハビリテーションセンターで病院、訓練施設(自立支援局)、医療・福祉専門職育成施設(学院)、研究所を有する独特な組織である。

当センターの利用者は全国から集まり、職員は医療・福祉系のさまざまな専門職や工学系、事務系などで、障害について知見のある人が多数おり障害のある人の自立・社会参加を促進している。

図 障害に配慮したおしゃれな衣服環境促進のための取り組み
図 障害に配慮したおしゃれな衣服環境促進のための取り組み拡大図・テキスト

2 国リハコレクションを始めた経緯

「患者さんが衣服で困っていることがありませんか」と、ある午後の会議(2011年4月26日)後、看護部長への著者の問いかけから始まった。その日のうちに各看護師長に伝わり、患者さんの幸せな心に繋(つな)がることに参加できるのはとても光栄でありがたい、協力するのでファッションショーを開催してはどうかと提案があった。

著者の職歴は、通商産業省(現経済産業省)の研究所(現(独)産業技術総合研究所)で布を扱うロボットの研究に始まり、医療・福祉関連のロボットの研究に関わった。

その際、衣服にも課題があることを知った。病気、事故や加齢などによる体型の変化、手足や腰の動きが不自由などの理由で、以前着ていた服や既製服が着られない、着たい服を手に入れることが困難な人たちがいる。80歳を過ぎると指の関節が痛くて小さなボタン掛けが難しい人もいる。その後、ご縁があり、医療・福祉の現場を有する当センターの研究所の障害工学部長(当時)となった。そこで、先の質問を投げかけてみたのである。

「ショーを開催するというが、どのような課題があるのか」と看護部長に質問したところ、看護部長・副部長、看護師長・副師長の13人が集合し、病棟の入院患者のいる2階、3階、4階と病院外来、自立支援局の各担当者が衣服に関連する課題を説明してくれた。病棟の入院患者さんの障害の程度と種類は各階で異なり、衣服についての課題と要望も異なった。また、病院外来はフットケア外来があることから靴下に関する要望があるなど、多数の課題があることが分かった。

その結果、全部を一気に解決することは困難だが、課題があることを多くの方々に知っていただくためにファッションショーを行うこととした。具体的には衣服の課題を解決するため、調査研究として看護師も関わり、病院や自立支援局の利用者にモデルとなっていただき、彼らの衣服を作り、それらをショー形式で見せることとした。

一方、2011年に研究所へ筒井澄栄室長が異動して来られ、産学連携で障害者衣料の製品化に関わった経験があり、かつ理学療法士でもあることから一緒に活動を開始した。

さらに、高齢者・障害者衣料の勉強会を開催していた時に人材育成の必要性を感じ、文化服装学院の伊藤由美子先生に声をかけたことがあり、衣服の製作に関して今回の協力をお願いしようと思っていたところ、逆に障害者衣料の調査に協力してほしいと声がかかり、ご協力願えることになった。

3 国リハコレクションの目指しているところ

ファッションの世界はあるが、『現状で手に入りにくい「おしゃれで障害への配慮がある衣服」がどこでも誰でもが手に入りやすい世界』、すなわち『新しい「ファッションの世界」』を目指し、国リハコレクションとして試みることとなった。ポスター製作はIAUD余暇のUDプロジェクトメンバーが作成するなど、多くの方々のご協力を得た。

そのポスターに書かれた左記の言葉は、障害当事者の声である。

  • ジーンズでコンサートに行きたい!
  • フォーマルも欲しいよね。
  • えっ、体に合わすと注文服?
  • 既製品で手に入ると助かるね。
  • 日本中、どこでも買えるといいよね。
  • 脱ぎ着が楽だとうれしいな。
  • やっぱりひとりで着たいよね!

障害に配慮がある衣料は、おしゃれで快適、動きを妨げない、排泄行為が容易になるなど、日常生活や社会参加に係(かか)わりが深い。

ショーは講堂一杯の来場者で大盛況であった。その場に応じた適切な衣服のみでなく、靴や身の周りの物、自助具などが必要になることもあり、具体的に障害をもつ人の生活を理解してモノ作りをすることがより良い支援につながる。しかし、モノ作り側の方々が、障害及び障害をもつ人の生活を知っているとは限らず、一方、ユーザー側の方々が、すでにある製品や技術に容易に目に触れられる環境にいるとは限らない。より多くの方々に障害の一端を知っていただくと同時に、ユーザー側とモノ作り側がお互いに知り合う機会や情報共有の場として、国リハコレクションを当センター主催で継続し、多くの方々のご協力を得て、試行錯誤と工夫を凝らし進化することとなった。

  • 2011年 国リハコレクション2011
    「あなたの気持ちを叶えたい」
    ファッションショー・モデル5人
  • 2012年 国リハコレクション2012
    「気楽におしゃれ、始めませんか」
    ファッションショー・モデル9人と展示・22件(企業、公的機関、他)
  • 2013年 国リハコレクション並木祭Ver.
    「よりキレイに!よりステキに! ~おしゃれして出かけよう~」
    展示とお化粧などの体験
  • 2014年 国リハコレクション2014
    「いつでもおしゃれに!」
    ファッションショー・モデル11人と展示・30件
  • 2015年 国リハコレクション2015
    「さあ でかけよう おしゃれして」
    試着体験と展示・19件

試着品製作:専門学校浜西ファッションアカデミー・認定職業能力開発校埼玉ファッションアカデミー、Uスタイル北海道プロジェクト実行委員会、他

2015年は、展示してある衣服を試着できる場(展示室に隣接する個室にベッドを用意)を設け、試着にあたっては、必要に応じ看護師が補助した。

試着した車いす利用者からは「障害者のファッションがこのようにいろいろな点で工夫されるとありがたいです」。参加者からは「各出展者のお話を聞いて、日本には障害者のおしゃれに関する商品や技術開発に尽力されている方々がたくさんいるということに新しい発見がいっぱいで感動しました」などの声が聞かれた。

4 今後の展開

2011年に衣服の試作体験をし、個人に合わせた衣服製作の価格を下げ、衣服を手に入れやすくすることが重要と感じた。そこで、文部科学省の科学研究費を(独)産業技術総合研究所と一緒に申請し研究を始めた。今年度から企業の方々の協力も得て研究を進めている。当センターは衣服評価支援のため、体型が変わるロボットダミーを製作中である。

経済産業省繊維課では、2020東京オリンピック・パラリンピック勉強会を9月より開始しており、著者も参加している。東京パラリンピックの入場行進などの際に、車いす利用の選手が、動きやすく快適な衣服で参加でき、その良さが多くの人に知られるようになればと思っており、今後も、おしゃれで障害に配慮のある快適な衣服を手に入れやすくなるように試行錯誤・工夫を進める。

(おのえいいち 国立障害者リハビリテーションセンター研究所所長)


【参考文献】

・国リハコレクション:http://www.rehab.go.jp/ri/event/fashion/top.html