音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

私のファッション哲学

デイパックと盲ろう大学生

森敦史

ファッション!!ってあのファッションですか?思わず叫びたい気持ちである。

「おしゃれだね」と社交辞令で言われることはあっても、鏡で自分の姿すら見たこともない盲ろう大学生にファッションが語れるのか、実は疑心暗鬼である。そこで課題と考え、お気に入りのデイパックを紹介しながら、盲ろう者への理解が少しでも深まればと思います。

盲ろう者は視覚と聴覚の両方に障害があるため、外出時にも大きな影響を及ぼしており、私の場合は右手には白杖、左手では触手話で会話、とにかく私の両手は超忙しい。それにもかかわらず、点字の書類に始まり、ブレイルセンス・通信機器・充電器・コード類・点字ボード・証明書類などなどコミュニケーション用の荷物がやたら多い。性格なのか習性なのか、ついつい不測の事態のことも考えてしまい、特盛になる。そこで登場するのがデイパックである。

デイパックといえば、おしゃれだが、所詮(しょせん)リュックである。しかし、それなりのこだわりと親密で長いお付き合いになることを考えて、アウトドア用デイパックを10年ほど前に買い求めた。決して高価なものではないが、機能性は抜群であり、現在は同型の2代目を愛用している。白杖と飲み物が収まるサイドポケット・機器類を保護する収納ポケット・夏でも背中や肩が蒸れない通気性を確保しながら、防水も完璧・軽量28Lという収納力は、小旅行にも使える優れモノである。

現在の2代目もコーディネートなどまったく無視して、同型の識別されやすいビビットカラーを選んだ。理由は一人で列車の乗り換えの際、乗車駅の駅員さんから「間違えのないように」という合理的配慮から、私の特徴も同時に乗り換え駅に伝達される。したがって、識別されやすいカラーを身に付けていれば、乗り換えがスムーズになる。初対面の人との待ち合わせでも行き違いはない。まさに盲ろう大学生の知恵でもあるが、ちょっとした配慮でもある。

「配慮される側も配慮は必要だ」と盲ろうの先輩に言われることも多いが、接する人を不快にさせない程度の身だしなみが私の細やかなこだわりであり、私のファッションなのかもしれない。

(もりあつし ルーテル学院大学総合人間学部社会福祉学科)