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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

1000字提言

カナダのインクルーシブ教育

長位鈴子

2015年9月27日~10月3日にかけて、沖縄県自立生活センター・イルカから4人、つくば自立生活センターほにゃらから3人、そして琉球大学法文学部人間科学科の鈴木良准教授の合計8人でカナダに行き、インクルーシブ教育の実践を直接に目で見て耳で聞いて学んできた。

カナダ視察の目的は、完全なインクルーシブ教育実践と成果、教育関係者間の連携の取り方を学ぶこと。カナダの教育委員会や各学校、障害者団体を訪れ、インクルーシブ教育から地域生活、社会づくり、社会保障費のことを直接教えていただいた。

カナダ人権憲章の成立は1982年。当時は賛成意見、反対意見、戸惑い意見などがあったようだ。教育現場でもいろいろな困難があり、年数を経ながら、子どもの教育を受ける権利保障とインクルーシブ教育(通常学校に通うことを基本にしつつ必要に応じ個々に合った教材、合理的配慮や支援員の育成、実践から課題を取り出し関係者で検証を重ねていく)を行なってきた。

カナダ人権憲章の制定には、多くの障害当事者や親の会、支援団体が強烈な運動をしてきたとのこと。法律(憲章)の成立から30年以上が経った現在でも、さまざまな相談が後を絶たないという。相談を受けると事実確認をし、時には人権の観点からどうするかを考えるコアメンバーが個々にあることが分かった。時には裁判所に出向き、証人として出廷することもあるそうだ。

地域生活をしていくためにダイレクトペイメント(介護料を直接障害のある人に支払う)のシステムや日本のような一般ヘルパーの派遣先があり、自分の生き方に合わせたライフスタイルで選ぶことができるのは羨(うらや)ましい。知的障害者や重複障害がある人たちがダイレクトペイメントを利用して、一人ひとりが必要な支援を受け、地域の中で生き生きと生活していた。

1人で在宅生活をしている人の家を訪問した。ヘルパーとして支援をしている人たちも長い人では20年くらいの付き合いがあるのには驚いた。「地域で生活して幸せですか?」と聞くと、すぐに「ええ。以前はグルーブホームで生活していたけれど、今は単身生活していて幸せよ」と答えてくれた。

街を走る公共バスは、前方ドアのステップがエレベーターのよう上下に動くようになっていた。運転席から操作できるので運転手が降りてくることはない。決して特別扱いしている様子もなく、気軽に声をかけてくれる人たちや街並みが沖縄県と似ているように感じた。


【プロフィール】

ながいれいこ。1963年2月11日生まれ。NPO法人沖縄県自立生活センター・イルカ理事長。障害者が地域生活を満喫するには、幼少期からの関わりが必要と考える。その中から本音で話し合える場所があること、お互いの違いを認め合うことを願い障害者運動を続けてきた。