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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

障害者権利条約「言葉」考

「文化的な生活」

北野誠一

「文化的な生活」は、障害者権利条約第30条で謳(うた)われた大切な言葉である。権利条約は、「障害者が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利」を認めた訳だが、まず1項でその範囲と中身を見ておこう。

「障害者が、利用しやすい様式を通じて、(a)文化的な作品を享受する機会を有すること。(b)テレビジョン番組、映画、演劇その他の文化的な活動を享受する機会を有すること。(c)文化的な公演又はサービスが行われる場所(例えば、劇場、博物館、映画館、図書館、観光サービス)を利用する機会を有し、(以下略)」

重要なことは、これらのことを他の市民と平等に楽しめること(enjoy access)と、そのために必要な情報保障と合理的配慮(in accessible formats)がきちんと謳われていることである。

その2項では、「障害者が、自己の利益のためのみでなく、社会を豊かにするためにも、自己の創造的、芸術的及び知的な潜在能力を開発し、及び活用する機会を有すること」が謳われている。

近年、各地で展開されつつある、「ボーダレスアート」や「アールブリュット」がその典型である。「ボーダレスアート」は、「障害者と健常者」「福祉とアート」といったさまざまな境界を越えて人間が持つ普遍的な表現芸術を意味し、「アールブリュット」は、正規の芸術教育を受けていない障害者等が、自発的に生み出した既存の芸術モードを超えた絵画や造形を意味する。要は、既存の境界や価値観を超えて多様で多彩な表現・表出を生み出してゆく面白さを、人類が知り始めたということだ。

3項では、たとえばわが国の2010年の著作権法改正による視覚障害者の読書権の保障のような、「知的財産権を保護する法律が、障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保する」ことが謳われている。

さらに第4項では、ユネスコ2001年の「文化的多様性に関する世界宣言」等も踏まえて、手話及びろう文化等の独自の文化的及び言語的な同一性と多様性を承認し、支援を受ける権利を保障している。

また第5項の(d)では、「障害のある児童が遊び、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動(学校制度におけるこれらの活動を含む。)への参加について他の児童と平等な機会を有することを確保すること。」が謳われている。

このように、第30条「文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」で最も大切なのは、第19条の「共生の暮らし」や第24条の「共生教育」と同様に、「共生社会の創造に向けた豊かな文化と活動と消費の生活」の保障である。

障害児者が同じ地域社会の同じ空間で、多様なプログラムや活動に一市民として主体的に参加・参画することで、私たちの社会は多様で多彩な活力ある社会となってゆくに違いない。

(きたのせいいち NPO法人おおさか地域生活支援ネットワーク理事長)