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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

報告

第38回総合リハビリテーション研究大会

橋詰玉枝子

2015年9月18日(金)~19日(土)の2日間、第38回総合リハビリテーション研究大会(実行委員長:木村伸也)が愛知県名古屋市のウインクあいちにおいて開催され、約550人が参加した。本研究大会は第36回(2013年)から第38回(2015年)にかけて、「総合リハビリテーションの深化を求めて」を共通テーマに議論を重ねてきた。今年は3年目の節目として「明日から一歩を踏みだそう」というサブテーマをかかげ、障害のある人・高齢者・生活機能低下のある人が主役となるサービスのあり方を、当事者と多分野の専門職がともに考えた。実行委員会事務局員の立場から、今大会を通じてこれらの趣旨がいかに議論され、どこまで共有されたのかを報告する。

冒頭、「協働的コミュニケーションから始める総合リハビリテーション~私たちに求められるもの」と題する実行委員長による基調講演が行われた。

最近5年間の「総合リハビリテーションの新生をめざして」(第33回~第35回)、「総合リハビリテーションの深化を求めて」(第36回~第37回)というテーマと趣旨を振り返り、現在の日本のリハビリテーションでは、専門職が(自覚・無自覚を問わず)分立分業的に関わる「伝授的コミュニケーション」が行われていると問題提起した。厚労省研究班の調査報告や自験例をひいて、当事者と専門職の真の協働のために、1.生活機能の低下という点から当事者の状況を理解すること、2.機能訓練の呪縛から脱して「総合」の目を育むこと、3.当事者の生活時間の最大活用を目指すこと、を提案した。

次に「障害者をめぐる動向」についての講演で松井亮輔副会長は、障害者権利条約の履行状況について、藤井克徳氏(JDF幹事会議長)は障害者に関わる法制度改革の動向について述べた。この中で藤井氏が出演した番組「戦争と障害者」(ドイツでの調査を中心に)(NHK放映)のビデオが上映され、多くの学生たちが見入っていた。私はナチスドイツにおける障害者への迫害があったこと、これがユダヤ人の虐殺につながったことを知って驚いた。当時の障害者の生きざまを藤井氏が取材した労作だった。

午後は、炭谷茂氏(リハ協会長)による「ソーシャルファーム―総合リハビリテーションとしての日本での展開」と題した特別講演が行われ、高齢者・障害者を含む第三の働く場を日本に創出する取り組みが欧州などでの先進例を含めて詳しく紹介された。

続いて、医療・介護・福祉の連携を考えるパネルディスカッションが行われた。野口宏氏(愛知医大名誉教授)が病院前救急の立場から、菊地尚久氏(横浜市立大学)がリハ医の立場から、田中雅子氏(日本介護福祉士会名誉会長)が介護福祉士の立場から、栗原久氏(前箕面市障害者事業団常務理事)が就労支援と福祉行政の立場から発言した。現在の医療・介護・福祉サービスが、かつてと違ったかたちで、急性期、リハ医療、在宅、福祉という時間軸上で分業・縦割りになっている現状が問題となった。

1日目の最後に、厚労省老健局長の三浦公嗣氏が「地域包括ケアと総合リハビリテーション」と題した特別講演で、認知症対策を含めた地域包括ケアシステムでのリハビリテーションの役割を強調した。

1日目は専門職寄りの話題が多く、市民には少し難しかったかもしれないが、本来、総合的であるべきリハビリテーションが分立・分業の状態にある現状への真剣な問題提起が行われたと思う。

2日目午前、総合リハビリテーションの視点から就労支援を考えるシンポジウムが行われた。大会の2週ほど前に、発達障害の当事者であり理学療法学科の教員であるシンポジスト、稲葉政徳氏の生活上の工夫が新聞に掲載された効果もあり、参加者数が非常に多かった。

近年、発達障害は身近な問題として取り上げられるようになっている。小児期の教育、成人の就労など多くの面から支援が必要であることから、市民の関心が高まりつつあることが背景にあるようだ。

次に、シンポジストとして松野俊次氏(豊田市こども発達センター副センター長)、山田昭義氏(社会福祉法人AJU自立の家専務理事)、伊藤圭太氏(特定非営利活動法人ドリーム代表)と脳卒中後遺症の当事者が登壇した。AJU自立の家は、歴史も長く、名古屋のみならず全国的にも当事者主体の先進的な活動を行なってきた。また、ドリームは、脳卒中障害者の居場所をつくるという目的のもと、脳卒中後遺症者に限定して支援をしているという特徴を持つ。その事業すべてが「障害者主体」「社会貢献」という目標のもとに運営されているという。伊藤氏のあとに言語障害がある脳卒中当事者自身が登壇し、ドリームの活動を通して豊かな生活を送ることができるようになり、いきがいにつながっていると述べていた。

最後に、港美雪氏(愛知医療学院短期大学教授)が、最近、名古屋市で開始した精神障害者への就労支援活動を紹介した。稲葉氏、山田氏、ドリームの利用者ら当事者によるリアルな話は、専門職が日頃意識しない生活上の問題などを知ることができ、興味深く、私自身、リハ医としての大きな示唆を得た。

会期中、ウインクあいちの会議室で、シンポジストの所属するAJU自立の家の小牧ワイナリーのワインとNPO法人ドリームのフェアトレード商品、手工芸品の展示販売、発達障害の理解促進を目的とするミュージカル「それぞれの星の下で」(文部科学省委託事業)のビデオ上映、人型ロボット・アルデバラン社製「Arobots NAO」の展示(中部大学工学部 大日向五郎教授)、日本聴導犬協会・中部盲導犬協会の活動紹介などが行われた。

シンポジウムの後に「パラリンピックにむけたユニバーサルなまちづくり」と題する八藤後猛氏による講演が行われた。

午後は、衆議院議員、野田聖子氏が、障害のあるわが子の育児と日本の福祉、医療について講演した。野田氏自身が当事者として日本の社会・医療・福祉をどう見ているかを知ることができた。代議士の生活と、子育てをする母・家庭人としての生活に一貫性、連続性があり、氏の積極的な姿勢がいきいきと伝わってくる、そして参加者に元気を与える話であった。

以上の大会企画が終了した後、上田敏、大川弥生氏によるICF研修会が行われた。私がリハ医学の研修を始めた頃、ICFが最終決定段階にあり、日本でのフィールド調査に参加し、臨床でのよりよい活用を考えてきたという経験から、ICFはリハ医としての私の原点といえる。ICF決定後14年が経ったが、ICFの用語を使いながらも、実際は機能障害を中心としたICIDHの考え方でリハ医療が行われている場面をしばしば目にする。

最後の質疑応答の際に、ICF研修会に参加歴のある人から、参加するたびに新しい発見はしているが、リハ医療の中でICFが使いこなされていないのはなぜだろうと質問があった。これは非常に残念な現実である。この研修会に参加して、ICFの価値は当事者のプラスの発見と増進、参加と活動の重視、当事者と専門職の協働の手段、といった点にあると私自身あらためて強く感じた。ICFの原点を確認するとともに、臨床で使う上では奥が深いということを知らされた研修会であった。

愛知県での研究大会開催は21年ぶりということである、第38回総合リハビリテーション研究大会、ICF研修会に参加して、当事者中心の真のリハビリテーションを考え、実践していく機会が、私たちの周辺にはまだまだ少ないと感じた。急性期医療、回復期リハビリテーション病棟、在宅サービス等の間で、お互いの顔がよくみえない現状があるにもかかわらず、日常の業務に忙殺されて打開することができていない。

リハビリテーションというのは、人の生活全体を考えるという非常に魅力的な仕事である。この魅力を周辺の専門職に理解してもらい、情熱を持ってリハビリテーションに取り組んでいけるように、カンファレンスや診療場面で話し合い、伝承していきたい。

(はしづめたえこ 愛知医科大学リハビリテーション科)