音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

家族からの意見

介護支援コンシェルジュがあったなら
―若年性アルツハイマー型認知症の家族として

堀場伸子

2004年秋、50代半ばの夫は若年性アルツハイマー型認知症と診断された。一家の大黒柱が思いもかけない病に倒れ、私たち家族は突然、経済的支柱と精神的支柱を失った。長男20歳、長女17歳、子どもたちの独り立ちまでには時間も費用もかかる時期だった。

当時、私は障害者福祉についての知識を全く持たなかった。診断を受けた大学病院の家族会での助言を手掛かりに、役所に問い合わせたり、ネットで調べたり、その時々の夫の病気の進行、病状に合わせてひとつひとつ公的支援の手続きをして来た。それは介護家族にとって骨の折れる作業だった。

自立支援医療費、福祉手帳、障害年金、介護保険、障害者手当…たくさんの支援に助けられて今日までやって来られたと思っている。それでも、若年性アルツハイマー向けの情報は乏しく、当然受けられるはずの援助を逃し、残念な思いをしたことは一度や二度ではない。同じ病気の友人と同じ案件で役所の窓口に出向いても同じ回答が得られないという理不尽な体験もした。

公的な支援は、どれも申請手続きをしなければ利用することができない。申請するためには、どんな制度、支援があるのかを知らなければならない。

けれど、認知症の人を介護する家族には制度を探し、調べている時間も心の余裕もない。実際、刻々と力を失っていく夫を守り、その日1日を無事に過ごすことで精一杯だった。支援にたどり着いた後には、支援継続のための煩雑な更新手続きが待っていた。各支援の有効期限を常に気にかけ、必要な添付書類を揃えなくてはならない。

介護保険に関しては、ケアマネジャーに保険手続きを任せることができたのはありがたかった。けれど、それは支援の一部でしかなかった。

昨年4月、夫は亡くなった。振り返って『介護支援コンシェルジュ』という仕組みがあったなら、どんなに頼りになっただろう。介護家族の多様な要望に対応できるプロフェッショナル、公的支援に限らず、生命保険、税務に至るまで、広範な知識を持っている案内人。それぞれの局面で利用できる支援を適切に助言できる人、システムがあったらいいのにとずっと考えて来た。

同じ認知症でも若年期と老齢期では必要な支援が異なる。家族の状況、収入等によって受けられる援助も、必要な援助も変化する。そんな時々に、当事者、家族のニーズを理解し、それに添った支援制度を提案できる人がサポーターとして居(い)てくれたらどんなに心強かっただろう。

(ほりばのぶこ 「認知症の人と家族の会」会員)