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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

家族からの意見

主体性を持って公的制度の利用を、ALS患者とその家族より

岸川忠彦

私の妻は筋委縮性側索硬化症(ALS)という難病に罹患して中途の重度障害者となりました。今の妻の生活はさまざまな制度と家族(主に長女)の介護で支えられていますが、公的制度の面で、今までの経験に照らして思うことを述べてみたいと思います。

ALSの場合、体のどこから不自由が始まりどのように進行するかは人によりさまざまで、一人として同じ経過をたどる人はいません。また、家庭や地域の社会的環境も症状の進み具合に大きく影響します。看護・介護の度合いは病気の進行に応じて増していきます。早い場合は数か月、遅い場合は10年以上、平均3年ほどで四肢を動かせず、言葉が発せない、食事の呑み込みが難しくなり、その逆の排痰ができない状態になり、24時間の看護・介護を受けながら生活することになります。

ALS患者の多くは、自宅で療養生活を送るのですが、毎日24時間の絶え間のない介護は、家族だけでできるものではありません。家族といえども自分の社会生活と人生があり、また自身の精神的・身体的な健康を保たないといけないので、それらと折り合いをつけながらできる範囲で介護しつつ、不足分を公的制度を利用することになります。公的制度は、障害福祉制度・医療保険・介護保険等と多岐にわたり、どのような制度をどのようなタイミングで導入するか等は、先述したように不自由になった部位や症状の進み具合や社会的環境によって違ってきます。

少なからぬ数の自立した患者と家族が、このような状況下で経験を積みながら、図らずも、各々の状況に特化した制度利用の専門家に育ってゆきます。そして、時に制度の相談窓口の担当者が公的制度の全体像や主旨・目的を理解していないのではないかと疑わざるを得ないことを見聞きすることになります。たとえば、介護保険と自立支援給付の関係で介護保険を使い切らないと自立給付できないと理解している事例、制度が措置型福祉から契約型になったのに措置権者のように振る舞う事例等です。少なくとも、各制度の全体像や主旨・目的などの基本的なことを理解して誠実に対応すればあり得ないことです。

制度は、それが出来上がった時はまだ従前の思想を引きずっていて、一方ですぐに硬直化と劣化が始まります。これにプライド・利害・思惑・制度の無理解などが絡まるとさらに制度が混乱します。このような事態を避けるためには私たち当事者が制度を運用し、正していくという主体的な意識と覚悟を持つことが大事だと思います。

(きしかわただひこ 日本ALS協会理事)