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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

患者さんの光かがやく未来のために魅力ある活動で社会を動かす

本間りえ

同じ病気を抱えた人たちとつながりたい

今から20年前、元気に生まれた私の息子が6歳の時に突然、ALD(副腎白質ジストロフィー)を発症した。ALDはいまだに病気の成り立ちや有効な治療法が分かっていない希少難病である。女性の持つX連鎖遺伝子の異常が影響しており、それを知った母親が自分を責めることが多い。私もその一人で、長い間、悶々とした時期があった。同じ想いの人と出会える場がほしい、その一心で親の会をつくったのである。

骨髄移植後、息子と一緒に暮らしたいと在宅ケアを希望したが、医療関係者や周囲の人たちからは口を揃えて無謀だと言われた。それでも反対を押し切って、在宅ケア生活を始めて20年になる。ちなみに、現在でも在宅で医療的ケアができるヘルパーや看護師は不足しており、当時と比べてもその状況は改善されていない。今も昔も綱渡り状態で、在宅介護の負担はほとんどが家族の肩にかかっている。一緒に暮らしたいという家族のために、在宅ケアをする上での情報共有も親の会の目的の一つであった。

医療をも動かすフランスの事例に奮起し、法人化を決意

家族会は2012年4月に大きな節目を迎えた。特定非営利活動法人「ALDの未来を考える会」として一歩を踏み出したのである。法人設立のきっかけとなったのは、フランスでのALD男児の遺伝子治療の成功だ。驚いたことに、フランスでは、NPO団体としての患者会が一般市民から寄付を集め、研究者に新しい治療法の開発に注力するよう働きかけているという。私は日本でも同じ取り組みができないだろうかと思い、そのために法人化する必要があると判断した。残念ながら、今から新しい治療法が開発されたとしても、私の息子には間に合わないかもしれない。しかし、これから同じ病気で苦しむ子どもたちのために私たち法人ができることはあると確信している。

楽しくてワクワクするイベントを

親の会発足当時から、メインイベントとして年に1回開催してきた「夏の勉強会」は、法人になってからもますます勢いを増し、今では北は北海道から南は鹿児島まで、全国の患者さんたちが集まるイベントに成長している。ALDのほかにも、先天代謝異常症と呼ばれる難病やがんの患者さんやその家族、医療従事者や医療分野の学生の参加も多い。また、最近では一般の方の参加も増えてきた。

さらにはALDの認知・理解を高める目的で、コンサートや映画の上映会などさまざまなイベントも行なっている。1年前には狭山スキー場で、ALDに関する展示イベントを実施。毎年開催している「おもてなしコンサート」は、地域の方、子育て中のお母さん、高齢者も多く参加し、障がいの垣根を越え、誰もが気兼ねなく楽しめるイベントに育っている。難病の家族がいるからといって、楽しいことやおしゃれをあきらめることはない。こうした活動に参加することで、家族の介護をしているお母さんたちに輝いてほしいというのが私の願いだ。

3年ほど前からは患者同士の少人数のグループで、自分の家族の現状や心のうちを思い切って話すグループワークを始めた。これがきっかけで、顧問医師や行政の担当者にこれまでは伝えられていなかった想いを話すことができたという声や、家族に初めて話すことができたという声が届いている。

また、ピアカウンセリングを行なっていることも大きな特徴で、難病の子ども支援全国ネットワークでのピアカウンセラー経験をもとに、患者さんの話を聞き、相談にのる活動も行なっている。初回は一人の患者さんに数時間かかることもあるが、はじめは不安でいっぱいだった方が、次の手がかりを見つけ、安心して帰っていく姿を見るたびに手応えを感じている。ピアカウンセリングもグループワークも、独(ひと)りぼっちにならず、相談できる場を作ることが目的だ。おこがましいかもしれないが、行政の福祉担当者以上に安心して相談してもらえるのではないかと自負している。何より私たちは当事者としての経験があるのだから。

患者の力を結集し、有効な治療法の実現を

今後は、早期に有効な治療法や製薬が開発されるよう、研究者や医師に働きかけていきたい。先天代謝異常症は病気の兆候を見つけ、診断を確定させること自体が大変な病気なので、確定診断が早急にできるようなシステム作りも急務だ。どの地域に住んでいても同じような医療システムやネットワーク構築ができたらと願うばかりだ。

そして、ALDと向き合っている患者さんや頑張っている家族の存在を、世の中に知ってもらう活動にも、引き続き力を入れていく。難病の家族がいても、何ら落胆することはない、むしろ、家族の結束力や愛の力で乗り切れること、その過程で魂を大きく成長させることができることを伝え続けていきたい。

末筆ながら昨夏、稚書『いのち光るとき』を河出書房より出版した。希少難病ALDを発症した息子とその母親の生活ぶりがうかがえる。ご笑覧いただけたら幸いだ。

(ほんまりえ NPO法人ALDの未来を考える会理事長)