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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

あたたかい手をつなぐ

青木恵美子

大倉山スイミーの始まり

障がいのある方にアロマハンドケアの技術をお教えし、一般のお客様へリラクゼーションとコミュニケーションを目的としたケアの就労支援をしている大倉山スイミーの青木と申します。

6年程前に友人に誘われ、横浜市の社会福祉法人かれんを利用している障がいのある方にアロマハンドケアのボランティアを行なっていました。3年が経過した頃、障がいのある方の「アロマ大好き。私もこれをやりたい」という言葉をきっかけに「アロマハンドケアをお仕事にしませんか?」とかれんに提案、就労支援プログラムとして、2011年に大倉山スイミーが発足しました。アロマの心地よい香りとやさしいタッチ、穏やかな会話が織り重なったことが幸いしたと思っています。

障がいのある方と仕事を共にするのは初めての経験です。障がいに対する知識もありませんでした。それでも、共に一歩ずつ歩いていこう、経験していこう、という希望に満ち溢れていました。

大倉山スイミーの主役は障がいのある方です。拠点のカフェモアではアロマハンドケア、肩のケア、ヘッドリラクゼーションやクラフト作りを行なっています。また、地域の有料老人ホームや子育て支援拠点、イベントなどに参加し、地域の方々と自然な形で豊かにつながりながら、お互いを知り合う場を積極的に設けています。

指導の方法は、

1.見本をを明示して
2.理解してもらい
3.やり方を任せて(見守り)
4.きちんと評価する

の繰り返しです。この5年を振り返ると「寄り添う」「一緒に歩みを進める」の連続だったように思います。

息子の障がいが判明

スイミー発足から約1年後、当時、小学2年生だったひとり息子の問題行動に悩むようになりました。他の生徒をたたいた、教室で椅子を投げた、と学校からの呼び出しが頻繁になり、担任の先生や夫と相談の上、3件の総合病院の小児精神科を受診しました。1、2件目は白。3件目の病院で「知的障害、自閉症」と診断されました。

振り返ると、乳幼児検診や就学前検診では何も問題がなかったので、ただただ驚き、それが真実だと受け止めることは到底できませんでした。今後の私の人生において「うれしい、楽しい」は要らない。今ある「辛い、悲しい」という気持ちをなくすために、感情がなくなってしまえばいいと本気で思っていました。

それでも日々は過ぎます。スイミーのみんなと顔を合わせると、その背後にいるご家族の苦悩が自分と重なりました。どんな想いで障がい児を育ててきたか。どれほどの苦労があったか。将来のために何を一番望んでいるか…。

息子の障がいを機に「お客様にハンドケアをする技術を持とう。頑張ろう」とひたすら励まし応援する支援が、親亡き後につながるような支援を考えるようになりました。ある程度の技術を得たら、本人に任せて口を出さない。手を出さない。失敗をさせる…。けれども必ず見守っている。「将来の自立につながる今を」が主軸に変わっていきました。

ありがとう。気持ちがいいね。

おかげさまで、たくさんの失敗を重ねながらもスイミーのみんなは変わってきたように思います。自分が習得した技術でもってお客様の手を握り、目の前で「ありがとう。気持ちがいいね。」と言ってもらうことにより、自分の存在を「承認」してもらい、自分自身が主人公であり、自分の行為によって相手が喜んでいるという充実感を得て、自己実現の欲求が満たされているのを実感しています。

アロマハンドケアは、決して難しい技術ではありません。香りとやさしい手のぬくもりが非言語でのコミュニケーションを可能にしてくれます。

私自身も変わってきました。アロマの香りに癒されながら、障がい児の親御さんと気持ちを共有する場がほしいと願うようになりました。何にも属さず、堅苦しくない、聞きたいことを聞けたり、話したりできるリラックスできる場、勉強会ができる場がほしいと願うようになりました。今は「ひらけ」「スイミーぬる茶会」として、毎月定期的に集まっています。

螺旋状(らせんじょう)のようにくるくると

アロマハンドケアをしているスイミーのみんなを見て、「私もやりたい。私の子どもにもさせたい」という問い合わせが多くなってきました。残念ながら、現在は諸々の事情で受け入れることができません。けれど、スイミーの始まりは「私もやりたい」という障がいのある方の言葉でした。やりたいことがあれば、本人の足りないところをサポートし、地域での生活を成り立たせるような支援を計画的、継続的にしたいと思っています。「やりたい」気持ちを奪うのはとても残酷なことです。アセスメントを大切にしながら「それはいいね。挑戦してみたらいい!」と応援し、力添えのできる人になりたいと強く思っています。

スイミーを発足したこと、息子の障がい、それらは螺旋状のようにくるくると回りながら、私自身の人生を創造していく大きな希望となり、障がいのある方の意思、個性を尊重してそれを生かせる就労の場の準備を進めている最中です。

(あおきえみこ 大倉山スイミー代表)


大倉山スイミーHP:http://swimmy-aroma.org/

ひらけFB:http://facebook.com/hirakehahaoya/