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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

第2回キッズネットワーク宿泊イベントに参加して

中村日向子

キッズネットワークは、NPO法人日本脳外傷友の会で小児支援に取り組んでいる家族会の連絡会です。中村家は東京のハイリハキッズ、ハイリハジュニアに参加しています。当事者は弟の太一(中3)です。私はハイリハキッズで中2の時から保育ボランティアとして活動しています。母はハイリハキッズ、キッズネットワークの代表を務めさせていただいています。キッズネットワークは発足して3年。私は2年連続で宿泊イベントに参加し、そこではハイリハキッズでは感じられない、子どもたちの成長を実感することができました。

今年は、集合時に子どもたちが「あー!久しぶりー!会いたかったー!」とはしゃいでいました。みんなと一泊することで心の距離が確実に縮まります。それは当事者だけでなく家族も同じです。母とママたちで、太一の要領を得ない話をひたすら聞いてくれるボランティアさんとのやりとりを見守りながら、「太一、飛ばしてるねぇ」と、大爆笑しました。他の家族の子どもを自分の子どものように可愛がってくれるハイリハキッズのママ、パパたち。この温かい雰囲気が出来上がるのも宿泊イベントがあってこそです。

昨年、当事者の姉の洋服を全部準備してから自分の着替えを始めた妹が自分の方が早く着替えを終わり、姉の着替えに文句を言いながらもフォローしていました。妹は着替える前にトイレに行きたいと言っていたので、私が「先に着替え終わったならトイレに行きなよ」と言うと、「お姉ちゃんが着替え終わるまで行けない」と即答。『行かない』ではなく、『行けない』です。家でも小さなお母さん、「私がお姉ちゃんを見ていなければ」と常に思って生活しているのだと感じました。今年は、トイレに行きたいけれど夜だから怖いと言う妹に、姉が「私が一緒に行ってあげる」と言い、お姉ちゃんらしく妹を気にかけているのだなと感心しました。

おわりの会では「感想を言いたい人」と聞くと、ほとんどの子が手を挙げてくれました。私はマイクを持って回り、ある女の子が私の目を見つめながら「日向子先生とお泊まりして嬉(うれ)しかったです」と言ってくれて、涙が出そうになりました。後で聞きましたが、初めてマイクを持って自分の気持ちを言えた子もいたようで、大きな一歩を踏み出すお手伝いができて本当に良かったです。

当事者だけではなく、きょうだい児にとっても家族会は特別な場所です。きょうだい児の姉(中学生)と話し、一番盛り上がったのは『当事者の子は本当にかわいい。けれど同じ障害なのに、自分の弟だけはかわいくない』ということでした。途中でその子の弟が話しかけてくると、みんなに優しく接していたのに、急に真顔で「声大きいから。空気読んで。うるさい。黙って」と言っていて、自分を見ているようだと思いました。きょうだい児が周りの人にどれだけ気を使っているか。当事者のきょうだいの立ち振る舞いをどれだけ気にしているか。だからこそ嫌ってしまう。きょうだい児にとって、当事者のきょうだいはこの世で一番邪魔な存在かもしれません。

ですが、いつか必ず感謝する日が来ます。私自身がそうでした。私は弟が障害者ということを恥ずかしいと思ったことは一度もありません。中学生の時、冗談で障害者を馬鹿にした友人に対して「障害者はかわいそうなんかじゃない。そんな考えしかできないあなたの方がよっぽどかわいそう。全国の障害者に謝ってほしい」と本気で怒ったことがあります。ハイリハキッズに参加して、弟の障害のことを前向きに考え、楽観的に受け入れることができたので、私のようなきょうだい児が少しでも増えてくれたらと思います。

ハイリハキッズ、ジュニアのママさんたちとは、とても仲良くさせていただき、進路、将来、恋愛相談まで、気兼ねなく話すことができます。キッズメンバーのみんなは、当事者、きょうだい児、家族の枠を超えて私のかわいい弟妹のような存在です。

ハイリハキッズに初めて参加したのが2007年。幼稚園生だった子は小学校高学年になりました。ママのお腹の中にいる時から知っているきょうだい児が何人もいます。長い間参加して、子どもたちとの間に信頼関係も生まれました。子どもの家族会は関わる人すべてが、特にボランティアさんにはずっと長く参加していただきたいです。

今回の宿泊イベントでは、講演会が開催されました。母や、キッズネットワークの皆さんが各地で体験発表、小児支援の現状をお伝えさせていただく機会も増えていますが、まだまだこの障害は知られていません。高校生の時、第一志望の大学で「高次脳機能障害はリハビリで治る」と言われた時は言葉を失いました。当事者の子どもたち、きょうだい児、家族が生きやすくなるために、高次脳機能障害、全国の家族会を、多くの方々に知ってもらいたいです。

(なかむらひなこ 高次脳機能障害の子どもを持つ家族の会ハイリハキッズ、大学3年生)