「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号
列島縦断ネットワーキング【新潟】
ありのままの自分を受け入れて自由に表現
~生き様発表会の活動~
吉井孝志
「生き様発表会」とは、ありのままの自分を認め、親からもらったいいエネルギーを音楽&パフォーマンスによって、自己肯定するイベントです。
生き様発表会を始めた経緯
2006年10月、新潟市総合福祉会館で「こわれ者(もの)の祭典」という団体の参加オーディションが行われました。「こわれ者の祭典」とは、心身に障がいのある人たちのパフォーマンス、トークイベントで自分たちの障がいをみんなの前で面白おかしく発表するイベントです。そこで私がギターと歌を歌い、それを一緒にオーディションを受けに来ていた「生き様発表会」初代代表の渡辺浩一(わたなべこういち)さんが観てくださり、あまりの演奏の力強さに衝撃を受け、「今度は自分たちでもイベントを開催したい!」と思ったらしく、彼の方から声をかけられ、翌年2007年8月に「第1回生き様発表会」を開催しました。
当時はまだ、私の統合失調症の病状が安定しておらず、いろいろ大変でした。渡辺浩一さんは筋ジストロフィーで、首から下は右手の親指と人差し指しか動かず、私にかかる負担は大きいものがありました。当時は、今のようにボランティアスタッフがいなかったため、会場の設営から音響設備、身体障がい者の介助、細かく言うとイベントチラシの作成や配布まで、全部私一人でやらなければならなく、始めてから2~3年は毎回これで止めようと思っていました。しかし、渡辺さんの行動や言動で何とか続けられました。
渡辺さんは、普段は電動車椅子の上に箱を乗せ、その中にリンゴやジュース、バスの回数券や切手、歯ブラシ等の日用品までたくさん入れ、いろいろな所へ出かけ行商をしていました。それこそ雨の日も風の日も休むことはありませんでした。そこでいろいろな人に声を掛け、たくさんの人たちと交流していました。そして渡辺さんは、こうと決めたら絶対実現しようとする執念と精神力、何より身体が不自由で人の手を借りなければ何もできないのに、人から何かをしてもらったら、それ以上のことを必死になって返してあげようとする人でした。
残念ながら渡辺さんは昨年5月6日(享年68歳)、この世を去られましたが、我々は彼から障がいこそ違いますが、たくさんのことを学びました。渡辺さんはステージ上で朗読をしていましたが、必ずその際に「もう一度生まれ変わっても障がい者で生まれてきたい!」とおっしゃっていました。初めて聴いた時は、彼の本当の気持ちではないだろうと疑っていましたが、長くお付き合いしていくうちに、あれはやっぱり本心だったんだなと思うようになりました。
今では彼から生き様発表会をやろうと誘われて、本当に良かったと思っています。おかげさまで生き様発表会は今年で9年目を迎えることができました。渡辺さんがいなくなったこれからも頑張って続けていこうと思います。
活動を通しての変化
ある双極性障がいをもつ出演者の母親の話です。
「いつまで、この絶望的な日々が続くのだろうか?と思う時に、生き様発表会の活動を知った。このイベントを観た時に、障がいをもっていても、こういうことができるんだと希望を持てた。生き様発表会を観るまでは、自分の娘がこういうことができると思わなかった。救われた。初めは障がいを皆さんの前で明かすことは複雑だったが、今では恥ずかしくなくなった。過去は死にたいなどと言って自殺未遂までしたが、今はここまで回復してくれて嬉(うれ)しいです。親はついつい自分のせいにしてしまいます。本当に苦しかった。このような活動は本人にとって良いリハビリにもなりました。苦手な人間関係も克服してきたようです」
次は、ある非定型精神病をもつ出演者の話です。
「病気を人前で発表する。これは初めはとても勇気のいることでした。ですが、回を重ねていくうちに、自分の病気を受け入れていく自分がいました。私たち精神障がい者は、毎日世の中や自分と戦っています。薬を飲み人目を気にして、ビクビクしながら生きています。でも、生き様発表会で自分の作った歌を歌う時は違います。お客様にどうやって楽しんでいただくか?一生懸命考えています。そして堂々としていられます。今では、全国放送のテレビ局などの取材も受けられるまでになりました」
このように、自分の障がいを人前のステージ上で告白すると、なぜか自然と自分の病気が恥ずかしくなくなっていくようです。そして、不思議と次から次へと自分も出演したいと言う障がい者が増えています。
お客様は、我々のパフォーマンスとトークを観て、勇気や感動、共感などを受け、応援までしてくださいます。お客様は当事者や当事者の家族、福祉関係者や一般の方々とさまざまです。ボランティアスタッフも増え続け、当初、私が一人でこなしていたたくさんの仕事も皆さんが手助けしてくれ、本当に有り難い限りです。
健常者は障がい者にどう接してよいか分からないようですが、話せば分かります。分からないから怖いのです。おかげさまで現在は、皆さんと一致団結し、盛り上がって活動しています。
後になって気づいたのですが、これはまさに一種のピアサポート活動でもあると考えます。そして不思議なことに、出演者の皆さんは日々具合いが悪くなることが多々あるにもかかわらず、イベント当日にお休みする方は全くいません。これは、皆さんが本当に楽しんで活動している現れでしょう。
発表会以外の活動
年に3回の新潟市総合福祉会館をはじめ、各地の地域活動支援センターなどでのコンサート、毎年9月の長野の松本公演、11月の石川公演があります。また毎年10月には、新潟市にある青陵大学看護学科の精神医療の第一限目の授業に、我々当事者の病気の体験談と歌を学生さんたちの前で披露させてもらっています。それにより、学生さんは、精神科病棟への実習に入りやすくなる効果があるそうです。他にもさまざまな所で講演会や座談会等に声を掛けていただいています。
我々は、ただ自分の好きなパフォーマンスと話をしているだけなのですが、皆さんは障がい者の生の声を必要としているようで、それが皆さんにとってとても新鮮なのだそうです。ほとんどのイベントの終了後、お客様を交えての交流会が開かれます。そこでは出演者の素の声や、お客様との分け隔てのない会話で皆さん大いに盛り上がります。そこには、精神障がい者への偏見など全くといっていいほどなくなっています。他にもテレビ局や新聞等の取材にも積極的に応じ、発信させていただいています。
これからの活動・展望
昨年、代表の渡辺浩一さんが亡くなられ、大変なことや変化したこともたくさんありましたが、何とか皆さんの協力の元、ここまでやってくることができました。これからも我々は障がい者としてやってもらうだけでなく、社会のために何か我々にでもできることを探し、必要とされるような団体になれるよう、さらに精力的に活動していきたいと思っています。
そして、すべての生きづらい世の中の人々に「こんな我々でも、こんなに楽しんでいますよ!」と発表し、生きる勇気や希望、そして意味を与え、お役に立ちたいです。
これからもお声が掛かればどこへでも行きます。そこで我々の生き様をぜひ観て聴いてやってください!きっと何か特別なものを感じるはずです!
(よしいたかし 生き様発表会代表)