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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年3月号

共に歩く「春日部街歩き」から

わらじの会(ゆめ風さいたま)

2015年7月29日、昨日までの雨はあがったものの見上げる空は曇り。「春日部街歩き」の本番は15団体、約50人の参加によって行われた。

この企画は、春日部市自立支援協議会の部会である「暮らし・防災部会」のイベントとして“共に暮らす地域”こそが防災においても意味を持つのだという主旨で、障害者生活支援センター「えん」主催で催された。

当日はフットワークの軽さと参加したお互いがよく見えるようにと、全体をいくつかの小グループに編成して行われた。参加した面々はそれぞれのグループごとに調査地区を目指した。

グループは、それぞれに身体・知的・精神、また視覚、聴覚といった障害当事者が混じり合い、また普段は一緒に活動することの無い、市内のいろいろな団体や施設職員、地元の民生委員や市議会議員、病院などのワーカーなどを含めて組織された。当然、ここで初めて顔を合わせる人も多い。今回の取り組みはこうした初対面同士でむしろギクシャクと、何とか足並みを合わせるくらいの状況で歩き出すことが一つの大きなテーマでもあった。それは、それぞれの障害当事者を含め「迷惑をかける」から参加しないのではなく、実際に障害のある人もない人もお互いに多少の「迷惑をかけ合い」ながらも、まずは進んでいくことを一つのテーマとしたからだ。

さて今回、共に企画に関わった「わらじの会」は「ゆめ風さいたま」の事務局も置いている民間の障害者団体である。先述の「迷惑をかけ合う」という部分は、「わらじの会」で会発足以来40年にわたり行われているバザーの物品集めでとられる方法とも重なっている。

「わらじの会」では40年来一貫して、地域で暮らす障害者宅の周りにみんなでビラをまき、日にちを決め、障害者が暮らしている自宅にバザーの物品を近所の人に自ずから持ってきてもらうという形をとっている。また、わざわざ持ってきていただいた物品を、さらには段ボールに詰めてもらったりもする。これは「迷惑をかけている」のかもしれないが、だからこそ地域での関係が密になっていくのだとも言える。頼り頼られながら人同士のつながりをつくっていくことは、障害者の地域での暮らしに欠かせないことだ。そして、それは防災に関しても同様だと考える。これはたとえば被災し、避難した避難所での暮らしを考えた時でも同様と思うからだ。

避難所などでの暮らしにおいて、障害者がふだん同様にヘルパーを求めることはとても難しいだろう。しかし一方で同様に避難し、ぽっかりと日常から離され、手の空いている障害のない人も避難所にはいるはずだ。そんな時に少々の迷惑をかけるとしても、近くの人にトイレまで手を引いてもらうのは、ヘルパー云々ではなくむしろ当たり前のことだろう。

話を街歩き当日に戻す。ガタゴトと慣れぬ同士でグループごとに街中を進む。途中、歩道の切れ目で大きく揺れる車いす。「大丈夫でした?」と車いすを押す女性の慌てた言葉に「惜しい!そのくらいじゃあまだ落ちないねぇ」なんて押される車いすユーザーの明るい声。また先行する人たちは、排水口の網にそれぞれの杖や白杖をあえて突っ込んでみたりする。振り返れば、ガタガタと小刻みに揺れる点字ブロック上の乗り心地と、点字ブロックの意義について車いすユーザーと視覚障害の人が意見交換したりしている。街歩きで先に「休憩を」と声を上げたのは車いすユーザーなどではなく、日ごろの運動不足を理由とする健常者スタッフだ。初めて出会うメンバーだからこそ逆に素直に聞くことができる。また物事を共に失敗することもできる。それは、ベストな案にはならないかもしれないが、少なくとも共に考えるこの段階での最善だ。

そもそも街というものは、交通・バリアフリーという要素だけでできている訳ではない。商業や観光、子育て、防犯・防災といった多くの視点、そうしたすべての視点で満足する街といったものは非常に難しいだろう。だからこそ関わる人たちがそれぞれに声を出し、お互いがうなづけるポイントを探っていくことが大事だろう。

ちなみに迷惑といえばこんな話も浮かぶ。車いすを押して実際に街を歩く時、まずは思うようにまっすぐ進まないことに驚くという話をよく聞く。これは道路が平らでは雨水の水はけがよくないために、あえて断面をかまぼこ型になるようにしているのだそうだ。それは、考えようによっては治水の工夫が街のバリアフリー化を邪魔しているとも言えるだろう。しかし、これも一方の立場だけで考えては解決しない。お互いの課題を共有しながら、一つのテーブルに乗せて考えていく。「春日部街歩き」はそうした実践の場として、また、障害者も紛れもなく街をつくっていく構成者であることを改めて周りに発信しながらこれからも続けていきたいと考えている。