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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年3月号

障害当事者の視点を活かした活動

水谷真

1 AJU自立の家とは

AJU自立の家は、障害当事者運動の中から生まれた、障害者の自立を目指す団体である。1973年、車いすを利用する重度障害者の呼びかけをきっかけに、名古屋で福祉のまちづくりの運動が始まった。当時は障害者差別が顕著で、200万都市の名古屋に車いすで利用できるトイレがどこにもなかった。障害者たちは行政や百貨店などに要望書を書き、仲間を誘って街に出かけて行き、自分たちも社会の一員であることをアピールした。障害のせい、社会のせいにしてあきらめるのではなく、自分たちも変わっていこう、自分たちが利用することでバリアをなくしていこうと活動してきた。

こうした運動の中で生まれたのがAJU自立の家で、1990年の事業開始から26年を数える。障害者の自立生活、社会参加、就労、福祉のまちづくり、さらには災害支援といったさまざまな分野において、社会の片隅に取り残された、より弱い立場の声(困りごと)から常に発想し、当事者の視点を活かした仕掛けを提案してきた。福祉畑にとどまらずさまざまな企業や団体、いろいろな分野の研究者や、時には皇族までも味方につけてきた。

2 被災地支援と防災の取り組み

1995年の阪神・淡路大震災、AJUでは、被災地支援と同時に被災した障害者を名古屋に受け入れて支援。2000年の東海豪雨災害では、AJUの仲間も多く被災するなかで被災地に入り、障害者・高齢者を中心に支援した。能登半島沖や中越沖地震、各地で災害が起きるたびにいち早く現地に足を運び、独自に情報を集めて支援を届け、ヒアリング調査をもとに障害者の視点から災害支援の提言をまとめてきた。AJU独自に、また各地の自治体等からの委託を受けて災害時要援護者避難支援セミナーを開催してきた。

東日本大震災では発災翌日から現地に入り、被災障害者に特化した支援活動を開始、最初の3か月で延べ350人のスタッフが現地で活動した。行き場のない障害者を名古屋に受け入れる一方で、避難所間仕切りセットを459セット、3000人余の避難者のもとに届けた。

2011年10月、釜石市に「被災地障がい者センターかまいし」を設立。助成金を得て「被災地の障害者支援および地域福祉底上げ事業」を展開。当事者スタッフと健常者がペアになって、半年弱で165人のスタッフを釜石市に送り、延べ1258日間活動した。送迎ニーズを中心に利用者数は延べ760人(1日平均4.6人)、活動数は延べ1,038件となった。その後、2013年9月まで常駐スタッフを派遣し活動を展開した後、地元スタッフによるNPO法人「障がい者自立センターかまいし」に引き継いだ。

3 避難所間仕切りセットの開発

災害時の避難所においては、誰しもプライバシーのない生活を余儀なくされる。

避難所にプラバシーがないことは、災害弱者にとっては単なる我慢を超えて、人権侵害や死活問題につながる場合がある。寝たきりのお年寄りが公衆の面前でオムツ替えしなければならない。女性の着替えができない。授乳ができない。仮設トイレはバリアだらけなのでトイレを我慢して膀胱炎になる。水分を控えて(食事の偏り)から便秘と下痢を繰り返すなど。避難所となった体育館の一角に間仕切りと簡易トイレがあるだけでずいぶん違うが、「非常事態だから仕方ない」「困っているのはみんな同じ」と片付けられて、我慢を強いられるケースは後を絶たない。

こうした教訓から、プライバシー空間を確保する目的で開発したのが間仕切りセットである。段ボール自体は中国や国内の業者から特注品を仕入れ、付属品のカーテンを知的障害の施設に作ってもらい、梱包を精神障害の人たちにお願いするなど、障害者の仕事により製品化し、全国の自治体に防災備蓄品として納めている。

4 障害当事者の視点を活かして

災害時、障害のある人たちの生きづらさは何倍にも増幅される。従来の災害支援は「大量、一斉、公平、画一」であまねく平等に、公平にというのが原則だった。しかし、非常事態だから「仕方がない」「我慢しろ」ではすまされない人たちがいる。

自衛隊や警察、災害ボランティア、自治体間の応援等、見事に進化したわが国の災害支援の中で、弱者支援が最も立ち遅れている。皮肉なことに最も支援が必要な人ほど、避難所に避難できない。「合理的配慮」がないからだ。

昨年3月に仙台で開かれた国連防災世界会議では、女性や障害者が防災計画策定のプロセスに主体的に参加する「インクルーシブ防災」が一つの目玉となった。障害者や子ども、高齢者、女性等は災害時に特に被害を受けやすく、多様なニーズを抱えている。従来はスペシャルニーズを持つ人ととらえられてきたが、これは障害を個人の責任ととらえる「医学モデル」の古い考え方に由来する。

障害があるから困るんだととらえず、あらゆる人を対象に、足りていない機能をどう補うかという「社会モデル」の考え方が防災の世界潮流になりつつある。

まもなく障害者差別解消法が施行される。温情とかやさしさの問題ではなく、人権としてのバリアフリーやユニバーサルデザインが議論される必要があり、災害対策にもまさに障害当事者の視点が不可欠だ。

「避難所に行ってもどうせ入れない」ではなく、地域の避難訓練に参加して、自分たちが過ごせるようにしてほしいという声が届く仕組みを提案していきたい。

(みずたにまこと 社会福祉法人AJU自立の家)