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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年3月号

難病当事者の防災への取り組み

後藤淳子

まずは災害時支援マニュアルと支援手帳の作成から

広島難病団体連絡協議会(以下、広難連)は、1991年に10の難病患者団体の連携組織として産声を上げ、現在では、加盟団体数17、会員数約3,200人という規模で活動をしています。

日本難病・疾病団体協議会に加盟する中・四国地区6県の団体が集まった2012年の会議の中で、6県中4県での「難病患者のための災害時支援マニュアル」の整備や、「難病患者の災害時支援手帳」の作成事例に接し、広島県での取り組みの立ち遅れを痛感しました。これをきっかけに、広難連として主体的かつ早急にこの問題に取り組むべく動き出しました。

まず、各都道府県の難病団体連携組織を対象に、災害時支援手帳等の作成の有無を含む防災への取り組みに関する調査票を送付し、全国での状況を調査しました。その結果、多くの都道府県で難病患者に対する何らかの防災への取り組みがなされている実態が判明し、これを基に、広島県に毎年提出している「要望書」の中に、2013年から「難病患者のための災害時支援マニュアル」及び「難病患者の災害時支援手帳」の作成という項目を盛り込みました。また、広島県議会議員に対して、他県での防災に対する具体的な取り組み事例を基に働きかけを行い、2013年度の県議会において知事より、難病患者を対象とした災害時支援マニュアルと支援手帳の作成をするとの答弁を得ることができ、県費にて作成することが決定しました。

その後、災害時支援手帳の内容について一任された広難連は、先行事例に学ぶため他地域の支援手帳について情報収集を行いました。そして、広難連加盟の有無に関係なく、広く障害をもつ当事者や家族団体に呼びかけを行い、2014年7月に「災害時支援手帳作成準備委員会」を立ち上げました。病名や障害の状況により必要な支援も異なる中、限られた紙幅の中で、可能な限りユニバーサルな手帳となることを目指して協議を重ねました。手帳の名称についても、「難病患者」だけでなく「長期療養疾病患者」という文言も付け加えることにしました。奇しくも、翌月の8月20日には、広島市で多くの犠牲者と大きな被害をもたらした大規模土砂災害が発生し、その後の準備委員会での作業にも自(おの)ずと拍車がかかりました。そして2015年1月、広島県に支援手帳の原案を提出すると同時に、広島県が作成した「難病患者の災害時支援マニュアル(案)」について、準備委員会や各患者会会員からの意見をとりまとめて提出するなどの過程を経て、2015年3月、遂に広島県における「災害時難病患者支援マニュアル」と「難病患者・長期療養疾病患者災害時支援手帳」を完成させることができました。支援手帳については、新聞3紙からの取材を受け紙面で大きく採り上げていただきました。

災害時支援手帳
災害時支援手帳拡大図・テキスト

マニュアルと手帳の完成はスタートに過ぎません

広島市で発生した大規模土砂災害でも、被災した障害者や難病患者はさまざまな困難に直面したことを聞き、今取り組んでいる防災活動の必要性をより一層痛感することになりました。災害時支援マニュアルと支援手帳の完成は、万全な災害に対する備えのスタートに過ぎません。これらを活かしていくために、防災について当事者が学び、市民に広く啓蒙していくための取り組みの必要性を感じていました。そこで、広難連の加盟団体として、私自身が代表を務める患者会「ミオパチー(筋疾患)の会オリーブ」が製薬企業の助成金を得て、2015年10月に広難連と広島市との共催で「支援が必要な人のための災害シンポジウム」を開催しました。シンポジウムの第1部は、東日本大震災で障害者の災害支援ネットワーク作りを実践された阿部一彦先生(東北福祉大学教授)による基調講演「東日本大震災と当事者団体活動」、第2部は、阿部先生を座長に、「災害時の自助・共助・公助」をキーワードに患者会被災者、減災ボランティア、広島市危機管理室管理職による活発なシンポジウムを行いました。当事者やそのご家族に加え、医療・福祉従事者、一般市民や県・市議会議員など多くの方にご参加いただき、災害支援への関心の高さを実感しました。

今後の課題

待望の災害時支援マニュアルと支援手帳は完成しましたが、マニュアルでは災害発生時、各関係機関が担う役割が定められていますが、医療・福祉従事者にはほとんど周知されていません。支援手帳については、指定難病の受給者にさえ情報が行き渡っていない状況です。当初から行政機関や医療機関、保健所、福祉施設等の窓口への支援手帳の配置を要望しましたが、発行冊数が2万冊と限られているとの理由から実現できていません。広島県のホームページより、支援手帳のダウンロードが可能になりましたが、ネット環境に無い方も多く、必要な方々の手元にどのように届けるかが喫緊の課題です。また、内容についても数年に一度、改訂を行なっていくことを広島県に要望しています。

今回、広難連で取り組んだ防災に関するソーシャルアクションを契機として、改めて当事者一人ひとりが自助、共助、公助について真剣に考え、率先して行政や地域社会に働きかけていくことの大切さに気づきました。今後も、各地域の実践事例に学びながら、当事者としての主体的な防災活動に継続して取り組んでいく所存です。

(ごとうじゅんこ 広島難病団体連絡協議会会長)