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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年3月号

平成28年度予算案の概要を見て

峰島厚

自然増抑制の予算

平成28年度障害保健福祉部予算案は、対前年度880億円増、5.7%増であるが、前年度と比較できる「主な施策」10項目のうち7項目が+1億円以内であり、実質的にはゼロシーリング予算といってよい。

増額の多くは障害福祉サービス費が占める(対前年度+710億円、6.5%増)。しかし、同費の2010年度から2014年度の対前年度比は約10~14%増で推移していた。同費も昨年度(対前年度比4.6%増)に続く伸び率低下といってよい。

現在、障害福祉サービスを利用している人は約110万人である。ここ数年、ほぼ毎年10万人ずつ増えているが、それでも利用資格のある障害者人口約750万人の7分の1でしかない。介護保険で見ると、要介護の認定を受けた人の6~7割が利用している。いかに障害福祉の資源整備その普及が遅れているか明らかになる。したがって障害福祉は、利用者が300~400万人に達するまで、少なくとも施策を毎年度10~14%拡大するのが最低限となるのである。

平成28年度予算は、明らかにサービス利用の抑制を強いるものであり、場合によってはサービスを利用できない難民を創出するのではと危惧されるものである。

今年度から始まる第4期障害福祉計画、全国集約によれば入院・入所施設からの地域移行数値目標を4県が白紙としている。これまでの実績をもとにした延長施策では計画できない項目がでてきている。他の項目もこれまでの実績をもとにした計画であり、ここ2年の整備費削減、障害福祉費の削減は、国指針による障害福祉計画の未達成を自治体に強いるものともなっている。

財務部局主導の社会保障費、障害福祉費削減

今回の障害福祉予算額削減は、明らかに財務部局が主導した社会保障費削減方針のもとに実行されている。

財政制度等審議会は、昨年7月の内閣の「骨太方針」策定に向けた社会保障費削減を3~4月に審議している。障害福祉では、たとえばショートステイのロング利用問題、利用者負担の他制度との比較、経過的な食事提供加算の問題など、障害福祉部局への介入とみれるような審議をして、5月に「3年間、毎年5000億円の自然増に」と削減計画を提言する。しかし、内閣の「骨太方針」は「3年間で1兆5000億円を目安に」となる。それを受けて概算要求は6700億円の自然増を要求、しかし財務部局は11月に改めて「予算建議」を発し、自然増5000億円になったのである。財務部局が、各省庁に介入し、各省庁の作業に対しても主導して予算編成してきたことが分かる。

この結果、障害福祉サービス費は概算要求から252億円減額されたのである。

財務主導の予算編成動向と戦争反対世論動向

この予算編成動向、前述した経過のように必ずしも一直線に展開しているわけではない。しかも社会保障施策に対する関係者の大きな声があって展開されたわけでもない。

改めて経過を見ると、5月と7月の間、6月に周知のように戦争反対世論を大きく変える事態が進行した。9月の戦争法強行採決後、再び財務主導の展開がされるが、戦争法反対世論も法廃止という一致点による政治づくりに発展拡充する。財務主導の展開(予算建議)は、自然増を5000億円に削減するが、同じく利用料や区分による利用量制限などの制度改悪も提起するが、それらは予算案では具体化されず、総合支援法3年後見直しでも今後の検討課題にされた。

戦争は軍事費と軍人確保のために政治全般を変えて、特に社会保障費の削減と社会保障難民の創出施策を必然とする。これがこの間の財務主導による予算編成であろう。しかし、そうであるだけに戦争反対の世論動向に左右されて、戦争施策だけではなく社会保障・障害福祉施策も展開される。

憲法9条と25条

平成28年度予算は、国連・障害者権利条約前文21項「平和で安全な状況が…障害者の十分な保護に不可欠である」を具体化していく、憲法9条があってこそ25条があるという憲法を守る攻防の第一段階とみている。

厚労省の新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討プロジェクトが、安倍内閣の3本の矢公表の直前に、すなわち矢の裏付けとなる柱として、新たな福祉の提供ビジョンを作成した(2015年9月)。介護と障害と子ども子育て制度の統合プランであり、分野の蓄積を無視した乱暴な、しかも非正規職員とロボットで生産性向上を図るという福祉破壊の提供ビジョンである。しかし、財務主導の侮れない第二段階の攻防の論点であろう。

介護保険との統合を前提にしないという障害者自立支援法違憲訴訟団と厚生労働大臣との基本合意(2010年1月)への挑戦状であろう。しかしこのビジョン、審議会等で諮られたものではない。官僚のみによって作成されたものでしかない。攻防は始まっているとも言える。

参議院選挙、さらにその後に明文改憲が争点にされようとしている。今後も9条と25条をめぐる攻防は続くであろう。25条を守る声が9条を守る声に大きく作用していって、25条を守るという展開を期待している。

(みねしまあつし 立命館大学産業社会学部特任教授)