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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年3月号

福祉サービス事業者としての視点

末松忠弘

重度者支援と緊急対応

当法人は福岡市郊外の5か所で約150人に通所サービスを提供し、4か所のグループホームと2か所のショートステイ、ヘルパー派遣を実施している。知的障害のある方が多く、身体障害をともなう重度重複障害の利用者も少なくない。

障害保健福祉関係予算は、現行法以前の十数年前から飛躍的に伸び続け地域生活支援への移行、就労支援の強化、重度者対策等が断続的に進められ、ここに来てとうとう平成27年度の報酬改定から伸びの抑制に入ったという印象。財政の厳しさと他の社会保障予算を鑑(かんが)みて、自然増を抱える分野としては健闘していると認識しているが、平成28年度の予算において、総合支援法3年後の見直しがどれだけ反映されていくのかが気になる。見直しの目玉になるであろう重度者(常時介護を必要とする者)への施策に対応できるのか。グループホームは重度者向け制度に移行すると言われているが、現行の報酬体系に少し手を加える程度では、責任ある事業者として、医療的ケアが必要な程度の人を受け止める住まいをつくることは難しいと考えている。

虐待防止法の施行以来、周知や関係機関の調整のために予算化されており、着実に早期発見や迅速な対応が進んでいる。そろそろ、たとえば緊急な一時保護を実施している事業者の状況もみてもらいたい。

当法人では、27年度に6件の一時保護を受け入れた。通常のショートステイにおける「緊急」とはその意味するものが違い、要するに「初めて会う障害者をその日から支援する」ということ。家族同席のアセスメントができるわけもなく、こちらの経験とスキルだけで支援するのだ。複数のベテラン職員がすべての予定を変更し、何とか対応しているのが現状である。

このように、最重度の障害者の支援や緊急対応が大きな課題と考えているなか、期待している地域生活支援拠点について、発展的な予算になっているのだろうか。基盤整備の予算と前年度補正を合わせて一定の成果を見込めるが、抜本的な対策と予算措置を検討する必要がある。

就労支援に新たな側面

就労支援について、重度者施策への予算シフトとは相反するが、一億総活躍社会の考え方と合致し、また、高齢者の就労支援にノウハウを提供できるポジションとして、前向きな局面を迎えていると思う。

農福連携の予算化はこの象徴で、ぜひ単に障害者施設が農業を実施するだけでなく、農家との有機的な関係をもって事業化するノウハウを広げていければよい。当法人でも将来的に100人以上の利用者に3食を提供することを考えると、日中に食材を栽培するのはとても効率的で、大きな安心を持てるので、積極的に検討していきたい。

さて、工賃向上のための予算は、いかがなものか。専門家の技術指導や経営指導は、これまで繰り返し実施してきたが、大きな成果はみられない。90事業所の商品を販売する福祉ショップを運営しており、各事業所の状況は手に取るように分かる。やはり、ノウハウの前に意識改革、危機意識が必要なのだ。26年度から導入されたように、基本報酬を下げて、高工賃の努力に対して加算する方式をさらに発展させていくことが望ましい。

芸術文化の拡充

一方、芸術文化活動への予算に改めて着目している。命に関わる支援ではないが、障害福祉はそもそも社会参加の支援が原点であり、芸術文化は社会との接点をつくる効果的な取り組みだ。作品や音楽を媒体にして、地域住民との関わりを持ち、理解と協力を得られるようになる。

当法人が支援する作家は、引きこもり状態にあったが、絵画を始めたことで評価されることにより、コミュニケーションができるようになってきた。展覧会への出展で遠方まで足を運べるようにもなった。ファッションデザイン専門学校とコラボレーションし、作品を使用した衣装制作によるファッションショーを開催している。

また、福祉人材の不足が深刻化していくなか、たとえばアール・ブリュット(生の芸術)の観覧をきっかけにこの仕事に関心を持つことは容易に想像でき、音楽を手掛けてきた人たちの新たな就職先として位置づけられるかもしれない。さらに、制度による福祉サービスだけで障害者の生活を支えることに限界が見えているとするならば、地域住民による制度外の支援も組み立てていかなければならない。福祉と芸術文化の融合により、幅広く重層な支援体系の構築を生み出す可能性がある。東京パラリンピックまでに一定の成果を出したい。

これからの重要課題

自殺対策への予算増加は大いに評価する。もっと増やしても良い。未曽有の大災害といわれる東日本大震災の死者が1万5千人、交通事故死は4千人。これらの数字に対し、自殺者は3万人である。しかも毎年である。何よりも優先すべき分野が取り残されており、私たち福祉の担い手でさえも見て見ぬふりをしてきたと反省しなければならない。これからの社会福祉法人改革により、社会貢献事業の一つとして社会福祉士の活用を含め検討していきたいと思っている。

(すえまつただひろ 社会福祉法人明日へ向かって主宰)