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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年3月号

平成28年度障害保健福祉予算案をみて

内山裕子

はじめに

私は、2010年から難病にともなう障害の進行のため、都内にある障害者支援施設に入所している。施設での生活も6年目を迎え、現在は地域移行に向けて準備中である。施設入所者・難病当事者の2つの立場から、平成28年度障害保健福祉予算をみて感じたことをお話ししたい。

障害児・障害者虐待防止等に関する総合的な施策の推進

平成24年10月1日に障害者虐待防止法が施行された。この法律は国や地方公共団体、障害者福祉施設従事者等、使用者などに障害者虐待の防止等のための責務を課すとともに、虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に対する通報義務を課すものである。しかし、障害者に対する虐待は今もなくなってはいない。そればかりか、虐待を発見し、自治体への通報義務を果たした障害者施設の元職員が、施設の名誉を傷つけたということで施設から損害賠償を請求されたという事態まで起きている。

施設は居室という密室の中で職員と1対1で介助が行われることが多く、虐待が起こりやすく、周囲からは見えにくい。虐待が起こらないように、また、虐待につながる不適切な介助をしないようにと、施設は虐待防止委員会を設置して職員の研修や周知を行なっているが、果たしてどれくらいの効果があるのだろうか。

国において、障害児・障害者の虐待防止や権利擁護に関して各都道府県で指導的役割を担うものを養成するための研修を実施するとのことであるが、その中に障害当事者が加わることを切に希望する。また、前述したような事態を繰り返さないために、制度の周知のみならず、通報義務者の保護についても対策を講じることが必要であろう。

重度訪問介護等の利用促進に係る市町村支援

平成27年度に22億から11億へと引き下げられた「重度訪問介護等の利用促進に係る市町村支援事業」は今年度も据え置かれ、引き続き小規模な市町村に重点を置いた支援となっている。この事業については、中核市と政令指定都市が対象外となっているという点と、財政支援が減少、もしくは中止された自治体で支給量が減らされるといった事態が起きる可能性があるという点に問題があるように感じる。これらの問題は、これから地域移行をしようとしている私にとってもとても深刻だ。

指定難病と介護保険優先問題

その上、指定難病の患者には介護保険優先問題がついて回る。これは、指定難病のうち介護保険で定める16種類の特定疾病に該当する40~64歳の難病患者は、自立支援法に先立って介護保険が優先されるというものである。要するに、「障害福祉サービスに相当する介護保険サービスがある場合は、介護保険を利用してもらいますよ」ということだ。

国は介護保険サービスを一律に優先しない、上乗せや横出しも可能であるとし、事務通知で徹底しているため介護保険への機械的な移行はないと否定するが、実際にはサービスが類似しているという理由等で介護保険の対象になると強制的に移行を求め、介護保険サービスを申請しなければ障害福祉サービスを打ち切るという運用をしている自治体も多い。さらに、国庫負担基準の介護保険対象者減額規定により、重度訪問介護の利用者が介護保険の対象となった場合には国庫負担基準が切り下げられる。

障害福祉のサービスと介護保険のサービスは大きく異なる。障害福祉サービスを使って生活してきた指定難病の患者が40歳になったからといって、必要なサービスの種類が急に変わることはない。特に施設入所者の場合、施設にいれば介護保険の対象外で、いくつになっても自立支援法を使えていたのが、地域に出た途端に介護保険の該当者となり、今まで受けていたサービスが受けられなくなる上に高額な自己負担を強いられる。

障害者権利条約は、第19条「自立した生活及び地域社会への包容」で「この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。」と定めている。しかしこの介護保険優先問題は、権利条約の理念とかけ離れたものであると言えよう。

また、国は「施設から地域へ」と方針を打ち出しているが、この問題が解決をみない限りは、地域移行したくともできないというケースが今後も後を絶たないことが予想される。多くの地域移行希望者が自分の住みたい場所で自分らしい生活を送るためにも、重度訪問介護の利用促進の予算増となるような施策を強く期待すると同時に、インクルーシブ社会の一刻も早い実現を望む。

(うちやまひろこ 障害者の生活保障を要求する連絡会議(障害連)幹事)