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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

時代を読む78

全国ポリオ会連絡会の発足と歩み

ポリオ体験者は子どもの頃から、障害を克服するために、人一倍頑張ることを強いられ、無理な頑張りを重ね続けた。そのような折、素直に障害に向き合い始めた4人の女性ポリオ体験者の集いの新聞報道をきっかけに、1995年から各地にポリオ会がつくられた。ポリオ体験者同士が集うことの楽しさと充実感が浸透したのである。そして、2000年に各地のポリオ会の連合体として全国ポリオ会連絡会(以下、全国連絡会)が設立された。現在の会員数は約800人である。

1950年代に流行したポリオウイルス感染症は運動神経細胞を破壊して急性の麻痺を生じたが、その後、生き残った運動神経が失われた神経の領域まで筋肉支配を拡げ、ある程度の麻痺の改善をもたらした。しかし、50歳代頃に、生き残った運動神経の負担過重により、新たな筋力低下や痛み、しびれ、異常な疲れ等を生じるのが、ポストポリオ症候群(PPS)である。わが国よりポリオの流行時期が30年ほど早い米国ではPPSが大きな問題になっているというニュースが入り、全国連絡会が設立された2000年頃は大きな不安が拡がった。

そこで、全国連絡会では海外の情報等を収集し、PPSやその対処方法について会員等に周知する活動を行なった。PPSは無理な身体運動の積み重ねにより、生き残った運動神経が過重な負担を強いられ続けて耐えきれなくなって生じる。そこで、米国のPPSクリニックでは医療だけではなく、住まいや職場の環境を整備し、無理のない身体動作を行うようにアドバイスし、症状を最小限にとどめていることを知った。

1960年初頭のワクチン導入により、新たな発症のないポリオは医学教育にほとんど取り上げられない。そこで、全国連絡会では、医療関係者等にポリオ及びPPSについて発信する活動を行い、各地のポリオ会は医療関係者の協力を得て、定期的な検診会を実現した。検診会では医師だけではなく、理学療法士や作業療法士等により、負担の少ない身体動作、福祉機器の活用やハード面の改造等について総合的なアドバイスが提供される。

現在、障害者基本法の障害者の定義が改正され、社会的障壁が私たちの生活に相当な制限をもたらすという、社会モデルが明確に示された意義は大きい。自分自身を無理にバリアに溢(あふ)れた社会に適応させようとしてPPSの不安に曝(さら)されてきたことを思うと、変わるべきは私たちではなく、むしろ社会の側であるという考え方は大いに納得できる。

全国連絡会では、会員から困難事例等の体験談を収集し、今年3月に発行した。会員相互にこれらの体験を共有し、各地のポリオ会がそれぞれの地域で、社会的障壁の除去、合理的配慮の意義等について発信していくのが、現在の最重要課題である。

(阿部一彦(あべかずひこ) 全国ポリオ会連絡会運営委員長)