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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

利用者の声

特別支援学校におけるコミュニケーション支援機器の活用と課題

禿嘉人

1 はじめに

特別支援学校では、ここ数年の間にiPadを代表とするタブレット端末が急速に導入されてきている。従来のパソコンと比べて起動時間が短くすぐに使える上に、軽量で持ち運びやすく、タッチパネルによる直感的な操作が分かりやすいなどの特徴から大きな教育効果が期待されている。特別支援学校で活用されているコミュニケーション支援機器の代表といえば、VOCA(Voice Output Communication Aid:携帯型会話補助装置)であるが、タブレット端末にコミュニケーション支援アプリを導入することでVOCAとして活用されることが着実に増えている。これまでのVOCAは障害児・者向けの専用機であることが多く、比較的高価で機能が絞られたものであることが多かったが、タブレット端末に障害児・者向けのアプリをインストールすることによって、安価で多機能なものを活用することが可能になってきている。

2 肢体不自由特別支援学校での活用

本校中学部の「作業」の時間では、タブレット端末に「トーキングエイドfor iPadシンボル入力版STD」(株式会社ユープラス)というアプリを導入して、仮想のお客様(本校の生徒や教員)や指導者とコミュニケーションをとっている(写真1)。従来のコミュニケーション機器では、会話の場面を切り替える際に、コミュニケーション・シンボルのシートを取り替え、設定を変更するといった介助者による作業が必要になることが多かったが、タブレット端末を利用することで、アプリ上で表現されるカテゴリ(タブ機能)に触れることによって、会話の場面に応じたコミュニケーション・シンボルを自分で表示することが可能になっている。このようにタブレット端末を利用することによって、従来のVOCAでは困難であった画面の構成や表示されるシンボルを使用場面に応じて変化させるといったカスタマイズ機能が実現され、使用する子どもたちにとって理解しやすく、扱いやすいものとなっている。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

こうした価格面での購入のしやすさや、カスタマイズ機能を備えたタブレット端末用のコミュニケーション支援アプリによって児童・生徒のニーズに合わせた利用法が進んできており、これまで絵カードなどを中心に活動を進めていた子どもたちにもコミュニケーション支援機器の利用が広がってきている。

現状では、タブレット端末に登録しておくことができるコミュニケーション・シンボルのセットには限りがあるが、今後はクラウドの機能を取り入れ、事前に登録しておいた児童・生徒のコミュニケーション・シンボルのセットをインターネットを通して、いつでも呼び出して利用することができるとより幅の広い活動ができると期待をしている。

3 院内学級での活用

新しいタイプのコミュニケーション支援機器として、インターネットによる通信を利用したものがあげられる。写真は本校の分教室(国立成育医療研究センター内にある院内学級)で分身ロボットであるOriHime(株式会社オリィ研究所)を利用している様子である(写真2)。これは入院等の治療や肢体不自由による移動の困難などから会いたい人に会えなかったり、外出が困難だったりした場合に、ロボットに搭載されているマイク、スピーカーを使って人と会話ができるほか、首を動かすことによって内蔵カメラで周りの様子を見渡したり、腕を動かしてジェスチャーによって気持ちを表現したりすることができるものである。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

また、障害児・者向けのコミュニケーション支援機器ではないが、Skype for Business(日本マイクロソフト株式会社)などのビデオ会議システムも手軽に高画質・高音質で教室と病室などを双方向でつなぐことができ、相手の表情や手話、ジェスチャーなど様々な方法でのコミュニケーションが可能なことから行事を中心に利用を進めている(写真3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

いずれもタブレット端末を利用し、病室内など設置場所が限られた状況でも問題なく使用することができる。

院内学級の課題のひとつとして、どうしても同年代の子ども同士の関わりが少なくなってしまうということがある。病院内の学校に通う子どもたちは、日常の生活から切り離されてしまったことに対して不安を持っており、こうしたネットワークを利用したコミュニケーション支援機器は友達など他者とのつながりを実感できる一つの手段となる可能性があり、コミュニケーションの機会を増やすことで心理的な安定を図ることができるなどさまざまな面で効果が表れている。

本校の分教室では、国立成育医療研究センターのご厚意により、病室内でのモバイルWiFiを利用した取り組みを実施させていただいているが、セキュリティに関する懸念などから施設によっては通信機器の利用が制限されていることも多く、自由な通信ができないことが多いとうかがっている。

今後、インターネットを活用した手軽かつセキュリティに配慮したコミュニケーション支援がより一般的に広がり、子どもたちへの支援の一助となることに期待したい。

(かむろよしと 東京都立光明特別支援学校指導教諭)