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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

利用者の声

人力 versus 福祉機器

天畠大輔

私のこと

私は自身の重度障がいから「あ、か、さ、た、な話法」という人を介したコミュニケーション方法を使用している。言語の障害はもちろん、視覚障害、四肢マヒ、体の不随意運動と、多岐にわたる障害により、いかなる福祉機器も、私の言葉を正確にアウトプットできるものはなかったというのが事実だ。

私は福祉機器(意思伝達装置)を効率良く使うことを諦(あきら)めて、広く一般的に使用されているIT機器の利用にスイッチした。つまり、コミュニケーション方法は通訳者という人、を介しながら、PC等のIT機器を駆使することでそのコミュニケーションをさらに拡大していったのだ。

現在私は立命館大学の大学院に所属しており、博士論文を執筆中である。立命館大学は京都にある。私が東京にある自宅から、この大学に隔週に一度あるゼミに参加しようとしたら、1日掛かりの行程をヘルパーとこなさなければならない。一緒に動けるヘルパーと通訳者の調整に四苦八苦し、時間や労力を取られ、博士論文を書き続けるのは難しかっただろう。これを解決したのがSkypeである。専門的な知識を必要とする福祉機器と比べて、Skypeは誰にでも簡単に操作できるよう規格されているため、どの通訳者が付いても安定して利用できる。

重度障害者にとってのIT機器

脳性マヒの三谷泰夫は自書『じょんならん』で、パソコンの利点について、「たとえ自分で食事ができなくても、自力で排泄できなくても、パソコンを使えば何かを作ることができる。それも、ひとに喜ばれるものを…。しかも、重い障害に引け目を感じることなく、同じ視点で比較してもらえる。誰とでも意見を交換して、新しい世界に飛び込める。思うに、障害が重いほど、電子技術を使った効果は絶大だ」と述べている。IT機器は今や私の生活になくてはならない存在となった。

私にとっての福祉機器

かつて私も福祉機器を利用したことがある。アウトプットに障害のある人向けに作られた「オペレートナビ」という福祉機器だ。私はこの「オペレートナビ」を用いて約380文字の手紙を書いたことがあるが、丸3日かかりやっとの思いで書き上げた。

これだけの時間がかかった理由として、不随意運動により、テンポよく音声とスイッチを押すタイミングを合わせにくく、そのため修正や削除を行うこと、誤字脱字を確認する等も非常に困難であったことがあげられる。また、文章がひらがなのみのため読みにくい。当時の読み上げソフトでは、音声に抑揚が無く、棒読みで聞き取りにくかったため、言葉のニュアンスが正確かどうか分かりづらかった。このように障害の内容と意思伝達装置の機能がかみ合わない場合、些細(ささい)な文章を書くために、膨大な時間と労力を費やさなければならず、その割に文章の正確性にも欠けるのが現状である。

反対に、間(あいだ)に通訳者を媒体としてアウトプットする場合、私の発するキーワードを基に介助者との協働作業が可能になり、私の感情の微妙なニュアンスを察知して表現したり、足りない言葉の補い合いが可能になる。ある程度のことがお任せできるという利点から、時間や労力の短縮もできる。しかし同時に、相手の知識に依存しすぎるという危険性を含むため、より人間間のコミュニケーションの問題が発生する。

福祉機器の利点

意思伝達装置としての福祉機器にも、いくつかの利点がある。全身マヒの絶望的な状況に陥った患者が、唯一動かすことのできる体の一部分(たとえば瞳など)の動きをキャッチする、特殊カメラを備えた福祉機器(意思伝達装置)を使い、パソコンを用いて自己の意思を相手に伝える、などが可能になった。

このような意思伝達装置は、直接自己の意志をアウトプットでき、また、自分の言葉で言い切れる、という点で、アウトプットに障害をもつ人々にとって非常に有効と考えられる。自分の言葉で最後まで言いきれるということは、通訳者を介さないため、私のように通訳者のボキャブラリー量やコンディションに左右されないとうことであり、彼らのように意思伝達装置を使用してコミュニケーションができる大きな利点であると考える。

終わりに

個々人による障害の程度の違いから、一般的な福祉機器を使うことのできる障害者と、その障害の専門性によって、介助者の力を借りる障害者が二極化し、今後明確化していくのではないか。私の場合はこの後者に当たるが、もしも、アンドロイドが今よりも性能を高め、人による介助と同じ機能を持った福祉機器として発明されるのなら、私も福祉機器を活用するユーザーの一人になるかもしれない。すべての障害者が同じように使える福祉機器、そんな未来を期待するとき、私はアンドロイドにその可能性を見る。気兼ねをせず頼みごとができ、彼らの食事や休憩時間などの心配もしなくて済む。

しかし、私のように文章を書く人間相手には、私の意見を尊重するばかりでは物足りない。ダメだしされることによってより自分の文章が纏(まと)まってくるからだ。ダメだしとは、感情や経験値などを含んだ、より人間味のある機能だ。つまり、どんなに優れた機能を持っていたとしても、やはり人間味のあるものでなければ、その機能は有効に活用されることはないのではないか。

果たして、私が文書を自分で書けるようになるのが早いか、アンドロイドがダメだしするようになるのが早いか。

(てんばただいすけ 立命館大学大学院先端総合学術研究科)