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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

列島縦断ネットワーキング【新潟】

つばめキャンドル!
私たちが心を込めて作っています

土田貴子

「つばめキャンドル」誕生のきっかけ

「つばめキャンドル」とは、燕市社会福祉協議会就労支援センター内にあるキャンドル製作チームの名前です。事業所の目標とするところは「障がいがあっても社会とつながりながら仕事に誇りをもって働くこと」。キャンドル製作という仕事を通して、どんなことを身につけ、どんな能力を育てていくかを考えながら、日々商品作りに取り組んでいます。

つばめキャンドルの製作現場には、「キャンドル」という人を喜ばせる商品を媒体に、ものをつくるだけではない、人が育っていく環境があります。ものづくりの独創性だけが大事にされるわけでもなく、逆に規格商品の大量生産だけでもありません。働く仲間と工夫をしながら力を合わせて仕事をするということ、自分に向き合い、自信をつけていくということ…利用者の皆さん(以下スタッフ)は、社会の一員としてここで働きながら、一般就労を目指し、日々「働くことへの意識」を育んでいます。

「つばめキャンドル」の誕生のきっかけは、2013年春に新潟県から発行された〈新潟県魅力ある商品づくり事業〉の取り組みをまとめた冊子「授産品読本」でした。その事業のコーディネートをしていたうちの一人が、現在もサポートで関わってくださっている企画製作室Bridge代表の小林あかねさんです。

その冊子が発行された当時は、主な仕事であった企業からの請負作業がなかなかうまくいかず、自主製品開発に本格的にとりかかりたいと考えていたところでした。冊子を読み、「こういうものづくりのサポートをしている人たちがいるのなら、ぜひ相談にのっていただきたい」とすぐに問い合わせたのが始まりです。まずは、お互い何をどんなふうにできるのかを模索しながら、手に入る材料を使って試作品を作り、打ち合わせを重ねました。そして、まずは形になりそうなキャンドル製作からやってみよう、ということでスタートしました。

目指していること

つばめキャンドルでは、単に商品を作って売るということではなく、スタッフが「仕事を通じていろいろな経験を積み重ねられること」を大切に考えています。実際に、人と関わることが苦手なスタッフがきちんと挨拶できるようになったり、ワークショップで接客ができるようになったりしている姿を見ていると、「経験することの大切さ」を実感します。

商品作りでは、「人に喜んでもらえる、喜ばせるちからがある商品」であることを意識しています。つばめキャンドルでは、結婚式場から回収してきたキャンドルを再成形して商品を作っていますが、原料となるキャンドルには、「幸せに包まれた時間」が記憶されています。そこに、温もりある手仕事がプラスされることで、「嬉(うれ)しい」「幸せ」の連鎖が続く商品であってほしい…そんな願いを持ち、日々心を込めて丁寧に製作しています。

当然ながら、お客様に手に取ってもらうためには、商品の良さが伝わるような魅せ方や売り方が大切です。昨年からは、SNSなどを通じての情報発信にも力を入れ、つばめキャンドルの「今」が伝えられるよう心掛けています。また、デザインをはじめ、自分たちの力で難しいところは、小林さんに限らず、各分野のプロにアドバイスをいただきながら協働で進めてきました。「幸せのおすそ分け」にこだわった商品展開でいろいろなご縁がつながり、仕事の幅が広がってきたので「つながること」はこれからも大切にしていきたいと考えています。

商品開発の取り組み

つばめキャンドルの名前の由来となっている「つばめ」は、新潟県燕市というまちの名前からつけました。「地域」という漠然としたくくりのなかに障がいがある人たちが働いている、または、働くことに向けて準備をしている…「私たちはここ―燕―というまちにいるよ」という声を代弁するように、屋号の一部に「つばめ」というまちの名前を採用しました。

また、燕市は古くから金工技術をはじめ、さまざまな地場産業があります。キャンドルを成形する型も、障がいがあるスタッフの動きを考慮しながら、地元の工場に相談しオリジナルの形で製作していただきました。「燕」というまちで、その地場産業や魅力ある人材の力とともに商品づくりに取り組む…これは「地域で暮らす」「地域とともにある」という言葉の意味を具体化していくことなのかもしれません。

つばめキャンドルの商品ラインナップの中で定番となっているのが、鬼をモチーフとした「鬼キャン」と「つのキャン」です。地元に伝わる〈酒呑童子伝説〉がヒントになっていますが、商品ネーミングのキャッチさとストーリー性、5つのサイズのチップを段々に重ねる作り方に、多くの人が興味を示してくれて人気の商品となっています。つばめキャンドルの商品は、この「カラフルなロウのチップを重ねて作る」ことを基本とし、そのクオリティーの追及にも努めてきました。

ワークショップの開催による変化

つばめキャンドルでは、通常の商品作りだけではなく、商品作りに使われる具材を使用して、子どもからお年寄りまで、誰でもつばめキャンドル作りを楽しめるさまざまなワークショップのプログラムを企画、開催しています。学校行事や地域のお祭り、イベントの出店時などで開催したり、理解のある販売店で常時、キャンドル作りができるようなセットを設置させてもらったり…今ではイベントに出店すると、「前にも作ったことがあります」「また作りたいので来ました」といった声を掛けていただけるようになりました。

ワークショップ等の機会は、活動のPRや仕事の拡大だけでなく、スタッフのコミュニケーション能力向上にも大きな意味があります。スタッフの中には接客が苦手な人も少なくなく、なかなか表舞台に出ることができない状況もありました。しかし、人と接する機会が増える中で、最初は顔を上げて挨拶をすることが難しかったスタッフも、少しずつコミュニケーションの場に慣れてきました。今では相手を見て挨拶ができるだけでなく、見学者に作業の説明もできるようになりました。仕事を通して得た自信は、今「仕事への誇り」へと繋(つな)がっています。

ワークショップの開催・運営をひとつの仕事とし、お客様と触れ合う機会や社会と関わるチャンスを作ることは、個々の可能性や視野を広げていくことになっているのだと感じます。

今後の展開

「つばめキャンドルを贈ったら喜ばれた」「つばめキャンドルを灯して幸せな時間を過ごせた」というように、ただ商品を売るだけではなく、人に喜ばれる、社会に必要とされるチームであり続けられること…それが私たちの願いです。そのためには、より良いデザインの投入やシステムの構築等を含め、ブランド力を高めていく必要があります。デザイナーやコーディネーター、地場産業との協働の良さは、それぞれのネットワークを通して広く伝えていけること。「支援する」「支援される」という関係性でなく、対等に高め合えるパートナーとして、これからもつながっていけたらと考えています。

新しいことへのチャレンジは、リスクや失敗を考えると躊躇(ちゅうちょ)しがちです。しかし、分からないなりにも「やるしかない状況」の中で覚悟をして取り組むと、少しずつでも前へ進めるものだとつばめキャンドルの取り組みから学びました。これからも新商品の開発だけでなく、お客様に楽しんでいただける企画を考えながら、つばめキャンドルの活動を継続できるよう努めたいと思っています。

(つちだたかこ 燕市社会福祉協議会 就労支援センター生活支援員)