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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

企業のCSRにおける障がい者支援の意義

髙橋陽子

日本フィランソロピー協会(以下、当協会)は、一人ひとりの社会参加が民主主義の原点である、という考えの下、個人や企業の社会貢献(フィランソロピー)の推進をしている。その際、一人ひとりとは、障がいのある人や高齢者、子どもたちも含んで考えている。支援する人、支援される人という固定的な立場があるのではなく、それぞれの個性や特性を生かしながら、お互い支え合い、助け合いながら社会を創(つく)っていくことをフィランソロピーの原点と考えている。

活動の一環として、健常者と障がい者の接点として自然な形で交われるものはアートではないか、という考えから、障がい者アートをテーマにした事業を推進している。

主なものとしては、機関誌『フィランソロピー』の表紙に障がい者のアート作品を使用しているほか、フィランソロピー名刺制作(障がい者の作品を名刺に使用)、新丸ビル竣工記念として、文化庁主催の障がい者アート展開催の企画・運営、障がい者就労支援事業の実態調査及び課題分析などである。

これらの事業を推進する中で、障がい者という人がいるのではなく、一人ひとりの中に不便なことや不都合なことがあるのだが、それが理解されないために障がい者と一括(ひとくく)りにされてしまうのだ、と気づいた。そこで、当協会の主な事業である、企業の社会貢献を核にしたCSR推進において、“障がい者支援”を、最近よく言われるインクルーシブ社会、ダイバーシティ推進の一環として捉えてもらうよう、工夫しながら事業を進めている。

以下に、いくつかをご紹介したい。

障がい者も社会貢献

(株)OKIワークウェル

同社は、1998年にOKI社会貢献推進室で始めた、重度障がい者の在宅勤務雇用を中心にホームページの作成、デザインなどを行う会社である。バーチャルオフィスシステムを活用することにより、離れたメンバー同士では困難と思われたコミュニケーションを円滑にし、チームで成果物を作り上げている。

肢体不自由や知的障がいをはじめ、さまざまな障がいのある社員が働いている。また、同社では、障がい者自身が、企業、在宅就労支援団体、特別支援学校などに出向き、これまで培った在宅勤務のノウハウやバーチャルオフィスシステムを提供することで、通勤、通所、通学ができない方々の支援をしている。また、一般の小・中学校などで福祉教育も行なっている。「障がい者による授業」は、これからも需要がありそうだ。

障がい者スポーツはスポーツの一つのジャンル

(株)モンベルはアウトドア用品の会社である。創業者の辰野勇さんは最年少でアイガー北壁登頂に成功したクライマーで、山に関する仕事をしようと始めた。1991年に、脳性まひの青年の「障がい者でもカヌーができませんか?」のひとことを聞いて、辰野さんは講習会を開き、障がい者カヌーをパラマウント・チャレンジ・カヌーと呼び、奈良県吉野川でカヌーの大会を開催した。現在では、「日本障害者カヌー協会」として、多くの障がい者がカヌーを楽しんでいる。

また、モンベルのチャレンジ支援プログラムは、どんなものでもチャレンジする人に賞を出すもので、障がい者も応募している。スポーツには、そうした「フェア」な発想がある。

サントリーは、被災地の障がい者スポーツ支援をしているが、車いすバスケットボールの試合を小学校で開催したことがある。プロバスケットボールの選手と車いすバスケットボールの選手が戦った。もちろん、車いすの選手の勝ち(人数を少なくするというハンディもつけて)。子どもたちはもちろんだが、サントリーの社員も大いに盛り上がった。そこには、障がいの有無はない。足をオフにして車いすを使いこなせるかどうか、だけだった。パラリンピックもそうした意識変革のきっかけになれば、と願っている。

社会的企業の台頭

昨今、社会的課題をビジネスの手法で解決しよう、と企業を立ち上げる人が増えてきた。ソーシャルビジネスと言われているが、障がい者の社会参加を推進するための起業も増えている。大阪の(株)インサイトは、障がい者雇用や授産施設の工賃アップのコンサルティングを手掛ける。東日本大震災後には、被災地の福祉事業所の製品を全国で販売する仕組み「ミンナDEカオウヤ」を複数企業・団体と共に立ち上げ、各地で販売に奔走した。

東京都調布市にある(株)MNH(みんなで日本をハッピーに)は、地域商社である。地域産業の衰退で困窮している地元の農家や醤油の蔵元などの産品に高い付加価値をつけて、地域の外に販売する「出口」まで責任を持って担っている。

具体的には、さまざまな味のかりんとうを生産し販売する。高尾山で観光客などに販売しているのだが、パック詰めや高尾山の売り場まで配達をするのが、高尾山の麓の複数の作業所の仕事となっている。地域の人とモノを結び付け事業化する。まさに地域の人も観光客も、みんなをハッピーにしたいという会社である。障がい者も、地域を元気にするための担い手として働いている。

期待できる農福連携

昨今、農業への障がい者の参入―農福連携に関心が高まっている。農業も、これまでの生産だけでは立ち行かなくなっており、加工品を作り販売するという六次産業化への道も模索している。また、耕作放棄地の増加や担い手不足も深刻であり、そうした中で、障がい者を戦力として迎え入れたい、という発想が生まれている。障がい者にとっても、農業は農作業そのものに加え、加工や販売など、特性や障がいの程度に合わせた作業内容を組むことができるものとして、今後に期待できる連携である。

CSRにおける障がい者支援の今日的意味

本年4月1日に「障害者差別解消法」が施行された。障害者差別解消法は、差別をなくそう、だけではなく、障がい者を社会を担うかけがえのない一員として、共に支え合う関係づくりを構築することを包含するものである。また、法律に定められた障がい者だけでなく、働く意欲や体力があるのに働けない高齢者、シングルマザー、刑余者、貧困家庭の子どもなど、就労しづらい状況の人すべてを考える必要がある。それぞれに独自のサポートが必要であることはいうまでもないが、そういう人たちへの温かいまなざしと仲間意識の醸成、分け合う文化づくり抜きには、これからの社会は立ち行かない。企業におけるダイバーシティの基本はそこに置くべきである。

実際、企業のCSRにおいても、人権擁護の視点だけではなく、従業員の人材育成の観点から、障がい者などへの支援・就労を捉えている企業が少しずつではあるが、増えてきた。人間としての感性、想像力、コミュニケーション力、発想の転換など、が今後に求められる人物像であるが、それらを育てるためにも、弱者といわれる人たちとの共生は非常に有効だと考えられ始めている。

CSRも従業員一人ひとりの人間力の向上なしには機能しないものである。共生社会は、そうした個人の実践の積み重ねを通して初めて実現するものだと思う。それが、また、一人ひとりの個人の幸福度を増すものにつながると信じて、CSRにおける社会貢献も続けていきたい。

(たかはしようこ 公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長)

分野別支出額の支出総額に占める割合の推移(%)

  12年度 13年度 14年度
1.教育・社会教育 17.7 19.5 15.5
2.学術・研究 12.3 14.5 13.8
3.健康・医学、スポーツ 11.0 11.7 13.5
4.文化・芸術 12.8 10.7 13.1
5.地域社会の活動、史跡・伝統文化保全 8.1 8.1 9.3
6.災害被災地支援 9.4 8.8 7.3
7.環境 10.6 6.5 7.3
8.社会福祉、ソリューション・インクルージョン 5.8 5.3 5.6
9.国際交流 2.0 1.8 2.5
10.NPOの基盤形成 10 0.9 11 0.7 1.1
11.政治寄付 12 0.7 10 0.9 1.1
12.雇用創出及び技能開発、就労支援 11 0.8 12 0.6 0.8
13.防災まちづくり 13 0.5 13 0.4 0.6
14.人権、ヒューマン・セキュリティ 14 0.2 14 0.1 0.3
15.その他   7.3   10.2 8.3

経団連「社会貢献活動実績調査」(2015)