音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

事例紹介

福島発 障がい者協働プロジェクト
「魔法のお菓子・ぽるぼろん」への協力

石森昌子

日清製粉グループは家庭用小麦粉「日清フラワー」、「マ・マーマカロニ」のスパゲッティ等を主要商品として取り扱う食品企業です。当社グループは東日本大震災復興支援活動推進事務局を設け、現在も福島県を中心とする東北3県の復興支援に取り組んでいます。

本稿では、障がい者福祉事業所や企業、NPOがつながり、生み出した「魔法のお菓子・ぽるぼろん」プロジェクトについて、企業のCSR担当者の視点からご紹介します。

交流サロンしんせいとの出合い

2013年10月、ある中間支援団体の職員から「日清製粉グループの力を必要としている団体がある」とJDF被災地障がい者支援センターふくしま・交流サロンしんせい(現・NPO法人しんせい:以下「しんせい」)をお引き合わせいただき、プロジェクトへの支援が始まりました。

「しんせい」との初顔合わせでは、東日本大震災と原発事故によって、双葉郡8町村から福島県郡山市などの中通り地域に避難している、障がい者の現状と抱えている問題の説明と共に、企画書を手渡されました。わずか数ページの企画書でしたが、取り組むべき課題とその解決への道筋、11事業所の約200人が力を合わせて生産する枠組み、「長期的に避難が続くであろう障がい者が長く働き続けられるように品質が高く、長く愛される商品を作り、福島の新生に貢献する」というビジョン、「スペインの伝統菓子・ポルボロンの原型」が描かれており、それが当社グループを動かしました。

「魔法のお菓子・ぽるぼろん」への技術支援

当時、すでに「しんせい」はポルボロンのいくつかのレシピを試していましたが、品質にばらつきがでて悩んでいました。そこで当社グループは、2014年2月18日、製菓を担当する事業所の職員を日清製粉加工技術センターにお招きし、ポルボロンの試作品を改善し、複数事業所で同じ規格の製品を製造するための技術研修を実施しました。その後、4月から8月にかけて、福島復興に関心の高い当社の社員にモニターになってもらい、各事業所の試作品の試食を実施し、味や形、大きさなどについて講評してもらい、その結果を各事業所の改善につなげるという作業を重ねました。

「しんせい」と出合ってから1年間が過ぎようとしていた2014年10月7日、改善を重ねた新製品を日清製粉グループ神田本社ビルにおいて先行で販売しました。当日は「しんせい」の職員と利用者が販売員を務め、購入者の生の声を集める一方、輸送過程で発生した箱潰れやシールのよれ等のトラブルへの改善策を一緒に考えました。こうして「魔法のお菓子・ぽるぼろん」は、10月~4月の季節限定商品として、広く一般に販売になりました。

当社グループの技術支援は今も継続し、2015年9月、第2期販売を前に「ぽるぼろん」製造を担当する利用者も含めての製造研修に協力しました。

プロジェクトの特色

「ぽるぼろん」プロジェクトは、「しんせい」と当社グループの2者による協働事業と誤解されることが多いのですが、当社グループは協力団体の一つにすぎません。当社グループの他には、災害緊急支援を行うNPOが菓子製造に必要な設備や道具(卓上ミキサー・麺棒等)を提供し、障害のある人たちの表現活動を支援するNPOが外箱デザインを支援しています。

「しんせい」がプロデューサー役となり、この異なる視点・異なる資源を持つ組織・専門家を共に、同じ課題に挑戦していく「当事者」として巻き込んでいったことが、このプロジェクトの最大の特長といえるでしょう。

「ぽるぼろん」の外箱は、切れ目と折り目の入った1枚の板紙を利用者の皆さんが折り込み組み立てますが、民間企業の視点から、その複雑な構造は作業効率を下げるのではないかと懸念していました。そんなとき、NPOから、「箱の在庫スペースを限りなく小さくし、利用者がやりがいを感じ、かつ作業しやすい設計にした」というねらいを説明され、何を目的としているか、改めて考えさせられる機会がありました。

さまざまな組織・専門家が入れば意見は衝突しがちですが、専門性の高いNPOが広くプロジェクト全体を見渡し、要所で全体会議や報告会を企画し、各事業所や関係者の相互理解を促したことで、「ビジネス(利益)」と「働きがいのある人間らしい仕事」を両立した全体最適に導いたと考えています。

福島の新生(しんせい)を願って

「ぽるぼろん」の生産は「お菓子を作る人」「箱を折る人」「発送する人」と、それぞれの事業所や利用者の得意分野を活かす体制になっており、このことが製品の安定供給を確保し、一つの事業所ではなしえなかった大量の注文に対応できるようになりました。プロジェクト開始当時、参加事業所は11か所でしたが、現在は13事業所に増え、2015年秋、第2期販売を迎えました。当社グループはこれからも「福島の新生」に向かって協働プロジェクトの皆さまと共に歩んでいきます。

(いしもりまさこ 株式会社日清製粉グループ本社 総務本部総務部 主査)