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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

事例紹介

40年にわたる経験を活かした「Heart & Artsプログラム」
~障がい者がアートの力で自分を自由に表現する活動への助成~

山縣麻由

損保ジャパン日本興亜グループでは、1970年代から豊かな社会づくりや、教育に資する企業メセナを行なっている。

当社の新宿本社ビル42階にある「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」は、芸術鑑賞の場を提供する美術館として1976年に開館。ゴッホの《ひまわり》を常設展示しており、次代を担う子どもたちに本物の芸術に触れる機会を持ってもらうため、小中学生の観覧料を無料にしている。また、美術館ロビー1階では、2003年度から毎年、新宿区立の特別支援学級、養護学校の生徒たちが1年間かけて制作した絵や刺繍(ししゅう)・習字・工作等の作品を発表する場として、「連合作品展」の開催に協力しており、期間中は、自分たちの作品を鑑賞するために生徒たちが訪れる。

(公財)損保ジャパン日本興亜福祉財団では、1977年の設立以降、社会福祉の発展に寄与する目的をもって文献表彰を含む学術研究助成を行うと同時に、社会福祉の最前線で活躍される障害者福祉団体等への助成事業を通じたアートへの支援なども展開している。

1989年に東海地方唯一の人形劇専用劇場として当社名古屋ビルに開設された「ひまわりホール」は、美術館に展示しているゴッホの《ひまわり》のように、多くの人々に愛されるホールとなり、地域社会貢献活動の拠点として大輪の花を咲かせることを祈念して名づけられた。現在は、人形劇に限らず、舞台劇など障がい者を含む劇団も活躍しており、毎年実施している「子どもアートフェスティバル」では、障がい者の方を招待するなど障がいの有無にかかわらず、人々の交流の場として大輪を咲かせている。

美術活動、音楽活動、舞台芸術活動などのアートには、人間の活(い)き活きとした側面を引き出す力がある。障がい者が取り組むアート活動や、それを支援する事業、普及する事業等を応援することで、障がい者の自由な表現活動の機会を増やすことが、豊かな社会づくりに貢献する。その想いで40年歩んできた。

しかしながら、障がい者アートへの関心は高まりつつあるものの、国や自治体からの補助金の対象にならない芸術活動に対する支援は十分ではなく、表現活動の活性化や次世代アーティストの育成のための多様な場を増やすことが課題となっている。

(公財)パブリックリソース財団とその共通課題認識の下、40年にわたる経験を活かし、障がい者が、アートの力で自分を自由に表現する活動へ助成する「Heart & Artsプログラム」を開始。本プログラムを通じて、社員一人ひとりが人間の活き活きとした側面を引き出すアートの力に触れるとともに、多様性への理解がさらに深まることも期待して、「ちきゅう倶楽部」として取り組むことが社員で構成される運営委員会で決定した。

「ちきゅう倶楽部」とは、グループ役職員がメンバーとなる社員ボランティア組織で、本倶楽部の活動は、社員有志が任意の金額を拠出する「ちきゅう倶楽部社会貢献ファンド」が支えている。本プログラムの助成金も、本ファンドから拠出しており、社員一人ひとりの想いが詰まったプログラムといえる。

助成対象とした活動は、NPO法人、一般法人、公益法人、任意団体、社会福祉法人などの非営利団体が行う、1.障がいのある人が参加・活動するアート活動(アトリエ活動、ワークショップ等)、2.障がいのある人たちのアート活動を支援する活動(講座の実施、講師の派遣等)、3.障がいのある人たちのアートを普及するための活動(イベント、出版、展覧会等)、4.障がいのある人たちのアート活動の発表の機会づくり(コンサート、舞台等)のいずれかに該当する活動。助成金は、アート活動の場の運営資金、コンサートや舞台などの開催費用、スタッフ人件費など、申請事業を行うための支出を支援するものとし、使途の制限は設けずに幅広く活用してもらうこととした。

一団体あたり上限50万円で助成対象プログラムを公募したところ、上限10団体の助成枠に対して、64団体から申請をいただいた。本プログラムの意義を感じるとともに、さまざまな団体が工夫を凝らした取り組みを実施していることに感銘を受けた。

申請されたすべての活動に対して助成ができないことが大変残念だが、当該団体における障がい者アートに関する事業の今後の展開に資するものであるかどうかなどを選考基準として、10団体に合計468万円の助成を決定した。助成プログラムは、障がいの有無にかかわらず、一緒に表現できる活動やコミュニティの広がりが期待できる活動などさまざまであり、今後の展開が楽しみだ。

本プログラムによる助成が、障がい者がアートの力で自分を自由に表現する活動のさらなる促進の一助となり、障がいの有無にかかわらず、アートによって、多くの人々が人間の活き活きとした側面を引き出されることで、豊かな社会が広がることを社員一同願っている。

(やまがたまゆ 損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社CSR室)