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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

事例紹介

障害者採用と地域貢献活動

石田彌

当社の業種は、惣菜(そうざい)の業務用商品の製造卸売業と惣菜弁当の製造小売業です。

現在、知的障害者が2人、身体障害者が3人(上肢機能障害1、難聴2)働いています。勤続年数は41年が最長で、最短は16年です。本年4月に知的障害者をさらに1人採用しました。現在のところ、障害認定を受けた人で途中退職された人はいません。

当社の知的障害者採用のきっかけは、当時の社員の知人が養護施設の職員をしており、その方の依頼でした。依頼を受けた社員はただ大変という意識だけで、採用に積極的ではありませんでした。しかし、弊社の創業者の父親がかつて札幌で刑期を終えた方の社会復帰時の就職を支援していた関係で、経営者の福祉に対する思いが採用の決断になりました。

当時は、社会的にも現在のように障害者雇用に関する情報や知識が少なく、養護施設の方に手伝ってもらいながら勤務指導や作業指導を実施し、本人ができる仕事を見つけてそれを担当してもらうという進め方でした。

採用間もない頃は、突然大声を出されて、どうなってしまうのかと驚き、右往左往したこともありましたが、このような症状が現れた場合に備え、現場と総務の担当者が連携し、状況によっては両親と連絡を密にして対処しました。この経験から、本人が安心できる環境づくりのためには、両親と会社及び担当者の信頼関係がとても重要なことだと痛感し、必要に応じ両親との面談を実施しました。

知的障害のある人との仕事は、ほかの社員も最初は慣れないために神経を使い、大変なことと感じていましたが、慣れるに従ってそれが普通になり、2人目の採用の時は、健常者を採用するのとあまり変わらない意識だったと思います。

男女別のトイレや更衣室は当たり前に設置していますが、今では障害のある人と一緒に働く上での対応策は、特別難しい対応でない限り、健常者と同様のことと思えるようになりました。

難聴者の採用にあたっては、音による異常察知に不安を感じ、健常者とのグループ作業である包装作業に配属しました。作業指示は、伝達ミスを心配して文字表示を多くしましたが、慣れてくると、その必要性は限定的であることが分かりました。また、両親と会社の信頼関係を特別に築く必要はありませんでした。

2人目の難聴者を採用した際には、互いに心強いだろうと2人を同じ配属にしましたが、互いの競争意識が強く、チームワークに乱れが生じて配置換えをしました。

また、社員の多能化を推進するにあたって、20年勤続の知的障害のある人を、材料の下処理作業から外仕事の製品出荷のための仕分け作業に異動しました。初めは担当変更の影響を心配しましたが、外部のお客さんに社内の誰よりも元気よく挨拶をするようになり良い結果がでました。また、その人の能力に合わせて文字や箱の色分けなど、今では当たり前になっている誤作業対策ができました。

これらのことから、使用者側の思い込みによる心配や気遣いは、場合によっては問題があることに気付かされました。

当社の障害者雇用は応募のあった方を採用する、また、受け入れ態勢を整えてから採用するのではなく、採用後に障害のある人と一緒に試行錯誤しながら、仕事環境を構築していくというものでした。このようないわば自然体の取り組みが、障害のある人の職場の定着につながったのではないかと思います。

現在、私は世田谷区障害者雇用促進協議会の会長職にあります。同協議会は世田谷区、都立青鳥特別支援学校、東京青年会議所世田谷区委員会、東京商工会議所世田谷支部が中心となって設立され、会員はほかに商店街連合会、工業振興協会、障害者の作業訓練・就労支援団体、職業安定所など障害者の採用者側と働く側の意思疎通支援に係る関係者の集まりです。13年前に設立し、身体障害者・知的障害者の雇用を対象に進め、2年前からは発達障害者の雇用も対象にしています。

世田谷区内は、障害者の雇用や支援をする専門部署や担当者を備えることができない規模の中小企業が多く、協議会では障害者を理解していただくための特別支援学校の見学や、作業訓練場の見学、採用企業の見学などの事業を実施しています。また、採用企業には障害者の採用に至る経緯や、採用後のさまざまな問題の解決事例を採用者・障害者・就労支援者の三者でパネル発表をしていただき、採用経験の情報共有を進めています。

発表では、障害者を初めて採用した企業が、異口同音に障害のある人が一所懸命働く姿を見て、他の社員の仕事に対する取り組み姿勢が変わったという発言を聞いて感動しました。

協議会としては、障害者雇用は案ずるより産むが易しと思える環境づくりを目指し、関係者が採用経験情報を共有し、その経験を未採用企業に知っていただき、採用のハードルを低くし、笑顔と笑い声で障害者雇用に挑戦していくことを進めていきたいと考えています。

(いしだわたる 利恵産業株式会社会長、世田谷区障害者雇用促進協議会会長)