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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

事例紹介

社会貢献と事業がシンクロした活動
~(株)カスタネットの取り組み~

植木力

京都に本社がある大日本スクリーン製造(株)(現、(株)SCREENホールディングス)の社員だった私は、社内ベンチャー制度に合格して、2001年に株式会社カスタネット(以下、当社)を創業した。資本金1,000万円、社員10人の中小企業で、オフィス家具、オフィス消耗品、工場作業用品を販売している。

社会貢献と事業をシンクロさせる

割増退職金も何もない、退職型の社内ベンチャー制度に応募したのは、小さな頃から起業家にあこがれていたからである。高校生の時の愛読書は、松下幸之助の著書や関連本であった。

「商売はお金儲けだけでは駄目、社会に貢献が必要」という松下幸之助の教えを信じ、創業時から軽作業などの仕事は授産施設に優先発注し、障がい者スポーツ支援として、全国車いす駅伝競走大会や障害者シンクロナイズドスイミングなどの支援活動、カンボジアの小学校校舎建設活動などを行なっている。

当社の企業理念は『いつも社会と共鳴する企業をめざし、社会貢献と事業がシンクロナイズする姿を追い求めています』。「社会貢献」をあえて「事業」の前においた。そして、ベンチャー企業では日本初の社会貢献室を設置し、その室長に私が就任した。

社会貢献活動を積極的に行う中で出会った新聞記者から「これからは社会起業家の時代が来て、当社の活動がその先進事例になる」と言われた。以降、社会起業家が活躍する時代が到来すると言う言葉を信じ、ブレずに活動を続けてきた。

市民活動に助けられて

しかし、当社は創業2年間で6,000万円の赤字を作ってしまい、毎月従業員への給与を支払うと、月末の仕入れ代金が支払えるかどうかのギリギリ状態のどん底まで落ちたのである。

そのどん底から這い上がることができたのは、関西を中心とした市民活動であった。顔も名前も知らない人が当社のことを宣伝してくれる不思議な現象が起きた。『オフィス用品はどこで買っても同じ、どうせ買うなら社会貢献の企業から』。このフレーズで、倒産の危機にあった当社は市民活動に助けていただいたのである。

中小企業ならではの強み

創業時からの企業理念のとおり、小さな企業にもミッションがあると考える。利益を出してから社会に還元する考えもあれば、たとえ赤字の会社であっても事業を行う中で社会に還元する方法もあるのではないか。つまり、社会貢献と事業が車の両輪的な考えである。

これは、大企業では環境的に難しいと思うが、中小企業では経営者の想い、アイデア、経営者の率先垂範の行動力さえあればできる。中小企業だからこそできる、大企業に負けない強みの分野である。

アイデアから生まれた活動

ちょっとしたヒントから生まれた事業を紹介したい。

京都を訪れる多くの観光客に当社のことをアピールするためにオリジナルの「京のおともだちクッキー」を作った。それを入れるパッケージを探している時に、京都ライトハウスで点字用紙が余っていることを知った。その点字用紙を再利用し、クッキーを入れる手提げ袋にして店頭に並べたところ、大きな反響があった。点字の凸凹部分が模様のように見えて可愛いので、商品とは別に手提げ袋だけを買いたいという人が現れた。

最初のきっかけは当社の手提げ袋であったが、知り合いの企業などに紹介することでその利用が広がり、現在では、紅茶専門店や煎餅屋などの土産物店などでも活用されている。袋の大きさも小さなものから大きなものまで、企業から注文が入るようになった。

手提げ袋の制作は、視覚障害者総合福祉施設である京都ライトハウスのFSトモニー(就労継続支援B型事業所)にお願いしている。10人ほどの方が制作に従事し、社会参画ができていると聞いている。クッキーの包装作業も授産施設で行い、その販売収益の一部は障がい者スポーツ支援活動の財源にもなっている。

この事業の成果は、金額的には決して大きなものではないが、点字用紙の再利用をはじめ、多くの企業での採用、点字に対する理解の促進、障がい者の仕事を通じた社会参画、障がい者スポーツ支援活動の財源にもなることで、企業と福祉が連携したビジネスモデルを構築できたと確信している。

今後の展開

昨年から、新規事業として防災用品販売事業を始めた。その中のオリジナル商品『マルチポンチョ』の封入作業を授産施設にお願いしている。受注に対応するために作業施設を増やす調整を行なっている。内職に出せばスピードも速く、品質管理の苦労や短納期対応で、従業員や私が休日出勤すれば問題も解決するはずである。

しかし、それでは普通のビジネスとなり、当社が目指すミッションは生まれてこないと考えている。市民活動で企業危機を救われた企業として、社会的な課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスが企業側に求められており、マルチポンチョ事業がその先進事例になるように、さらに取り組んでいきたい。

(うえきちから 株式会社カスタネット代表取締役社長・社会貢献室長)