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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

フォーラム2016

障害女性がジュネーブへ飛んだ!草の根の声よ、国連に響け!
―女性差別撤廃条約の本審査の傍聴・ロビー活動を行なって―

河口尚子

『DPI女性障害者ネットワーク』(以下、女性ネット)は、1986年に活動を開始し、現在は障害女性の課題に関心がある人たちのネットワーキング、障害女性の抱える課題に関する情報発信、調査・施策提言などの活動を行なっている。

国連女性差別撤廃条約(日本は1985年に締結)に基づいて設置されている「国連女性差別撤廃委員会(the Committee on the Elimination of Discrimination Against Women以下、CEDAW)」による、日本の本審査が今年2月に、国連ジュネーブ本部で開催された。女性ネットは障害女性の課題のメインストリーム化のため、昨年7月の事前作業部会に初めて2人を送り出し、今回の本審査では、総勢11人が現地でロビー活動を行なった。

2月15日は市民社会(NGO)からの情報提供、2月16日は日本政府の本審査が行われ、その間、私たちは主となる訴えによって4つの班に分かれ、23人の委員に働きかけた。

1班:障害女性の参画

障害者政策を話し合う委員会には2人しか障害女性がいない、女性政策を話し合う委員会には障害者がいない等、障害女性の公的ポストを含む社会参画の問題を訴えた。

2班:ジェンダー統計の整備

政府の調査統計は、障害種別や障害程度の項目はあってもジェンダーについてはない。障害女性の実態を把握し、政策に反映させるために、雇用をはじめとするすべての分野についてジェンダー統計の整備の必要性を訴えた。

3班:障害女性への性的被害・暴力・虐待と相談・支援の対策

実態調査では、35%の障害女性が職場で上司から、学校で教師から、施設・病院で介助者から、家庭内で親族から、性的被害を経験していた。被害を受けながら声を出せない、また、相談窓口やシェルターも障害女性の利用を想定したものになっていない現状を訴えた。

4班:医療・その他あらゆるサービスへのアクセス保障

すべての医療や保健サービスに障害女性を想定し、同性介助や妊娠・出産・子育てに関する合理的配慮といった性別に配慮したサービスの必要性を訴えた。また、過去の強制不妊手術への謝罪と補償についても『SOSHIREN・女(わたし)のからだから』とともに訴えた。

15日のお昼に、NGOから情報提供を行うプライベート・ミーティング(委員の参加は任意)では、女性ネットは4人で計1分50秒の時間をいただいた。この場にいない多くの障害女性の声なき声を届けたいと『私は女性であり、言語障害を伴う障害者です。そんな私に「あなたはどう生活したいのか?」と聞いてくれる人はいませんでした。でも私は、自分の人生を生きることをあきらめない。Nothing about us without us!(私たち抜きに私たちのことを決めないで)』で口火を切った4人の渾身のスピーチは、委員にも届いたと感じた。

午後のNGOブリーフィングでは、同時期に審査のアイルランド、日本、モンゴル、スウェーデンの4か国のNGOの代表が委員への情報提供を行なった。

合間をぬってのロビー活動では、私たちはお揃いのTシャツを着てアピールし、2日間で6人の委員に個別に会い、情報提供を行なった。

16日の本審査では、委員から障害女性に関する質問が出て手ごたえを感じた。「障害女性についてデータ不足のために公共政策がとられていない」「女性に対する暴力のなかでも障害女性に対する暴力が深刻だ」「障害女性が強制不妊手術を受けたことへの賠償の予定があるか」「障害女性に対してヘルスケアが適切に提供されているか。出産等に問題があると思われる」等。

総括所見では、マイノリティ女性に対して、複合差別を禁止する包括的な法を制定し、ハラスメントや暴力から保護することや、マイノリティ女性の権利を強めるためにクォータ制などの暫定的な特別措置が勧告された。また女性に対する暴力、政治的及び公的活動への参加、教育、雇用、経済的・社会的給付、健康サービスなどの各項目にわたって、合計12か所に「障害女性」という文言が入った。さらに、旧優生保護法の下での女性の強制不妊手術については、自由権規約委員会の時よりも強い勧告がなされた。

障害女性の声を直接届けたことに加えて、それを根拠づけるデータ(2012年『障害のある女性の生活の困難―人生の中で出会う複合的な生きにくさとは―複合差別実態調査報告書』など)を蓄積してきた成果だといえる。

一方で、課題も残った。総括所見では「胎児の重篤な障害の場合に人工妊娠中絶を合法化すること」という文言も入った。ただ、国連加盟国には中絶自体に宗教的理由で厳しい立場をとっている国もある。CEDAWは、女性の最後の手段としての中絶の権利を守ろうという背景があるようだ。委員は女性の子育ての負担を指摘していたので、家庭での子育てを母親一人に負わせない社会的支援が鍵になる。「妊娠した女性の自由かつ十分な情報に基づく同意がなされることを確保すること」との文言もあり、障害児の子育ても含め、女性が十分な情報をえられる方向で勧告を受け止めるべきである。

また、参画への障壁も感じた。審査は早いペースで進み、障害に応じた発言時間の延長や情報保障などの合理的配慮の時間はなく、会場の移動にも時間がかかり、きつかった。

これらの課題について、障害者権利条約(CRPD)の特別報告者カタリナ氏からは、合理的配慮の必要性をCEDAWに理解してもらう上で女性ネットが参加した意義は大きい、と述べられた。また、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の人権・障害アドバイザーのフェクンド氏からは、障害者権利委員会(CRPD)への働きかけに障害女性の声が必要との言葉もいただいた。

国際障害連盟(IDA)のヴィクトリア氏からは、帰国後の活動が大切と助言をいただき、女性ネットは障害女性の課題のメインストリーム化のために今後の活動への決意を強くした。

今回、CEDAWとの協議資格がある『女性差別撤廃条約NGOネットワーク(以下、JNNC)』に加えていただく形で参加し、国内の障害のない女性たちと接点を持った。障害女性の参画には合理的配慮が必要ということを理解してもらい、私たちの方も女性の抱えるさまざまな課題について知る場となった。

また「障害女性」といっても、障害も違えば抱えている課題も住んでいる地域も生活も違う。介助・通訳スタッフ、サポーターとして参加した人たちの経歴もさまざまであった。そのような私たちが、障害女性の課題のメインストリーム化という共通目標のために、補いあいながらの旅は、多様性を実感する機会でもあった。

私自身、これまで仕事でソーシャルワーカーや講師(研究者)として「障害政策」に関わってきたが、骨関節疾患をもつ女性でもある。「障害女性の複合差別」という言葉に、自分に必要だったのは「障害」だけでも「女性」だけでもない、「障害」×「女性」の両方の視点を同時に持つ場だと気づいた。政策に「障害」や「ジェンダー」の視点を入れ込む上で、「障害女性の声」が大きな意味を持つと実感できたのはエンパワメントな体験であった。

最後に、ロビー活動が可能となったのは多くの人の支援のおかげである。クラウドファンディングによる資金集めにも挑戦し、そのために広報活動のサポートも受けた。現地でも国際障害連盟(IDA)、反差別国際運動(IMADR)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の各スタッフにもご協力いただいた。支援に感謝したい。

(かわぐちなおこ 立命館大学客員研究員・社会福祉士)