音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

パラレルレポート作成にあたって

阿部一彦

政府報告についての概要評価

政府報告でも指摘されているが、政策の監視・評価に使える水準の統計資料が不足している。国・地方公共団体は適切な統計資料を作成しなければならない。

主に、障害者基本計画の監視・評価をもとに政府報告が作成されたので、基本計画に記載のない項目では検討が十分に行われていない。障害者総合支援法によるサービスには多くの記述があるのに、介護保険サービスの記述はない。在宅の身体障害児・者の68.7%(平成23年)は65歳以上であるが、65歳以上では介護保険が優先されるため、政府報告には高齢障害者への支援状況が記されていない。パラレルレポートではその旨を明記し、高齢障害者の問題について検討すべきである。

パラレルレポート作成にあたって

条約の中核となる障害者差別解消法は、条約第5条(平等及び無差別)に関する政府報告に概要が記されている。充実度と具体性に乏しいという批判もあるが、地方分権の現在、この法律を実効性のあるものにするには、地域に浸透させ、社会的障壁の除去、社会環境の整備に導く必要があり、地域の障害者差別解消条例が大きな意義を持つが、政府報告には記述がない。条約第8条(意識の向上)との関連も含めてパラレルレポートで検討を深めたい。

条約第9条(施設及びサービス等の利用の容易さ)の政府報告では公共的施設、公共交通機関、歩行空間等や情報利用のバリアフリー化等、いずれも地域生活に重要なことが記されている。ところで、「どこでも、誰でも、自由に、使いやすく」の考え方を示しているが、地域に関する統計資料がほとんどないので、「どこでも」すら、評価できない。

条約第11条(危険な状況及び人道上の緊急事態)関連では、性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて防災及び防犯に関し必要な施策を講じる必要性が記されているが、具体的取り組みの記述はない。地域防災会議への障害者の参画状況や実践活動についてパラレルレポートで分析すべきである。

条約第19条(自立した生活及び地域社会への包容)に関しては、政府報告に障害者の生活支援その他自立のための適切な支援を講じることが、国及び地方公共団体に義務付けられていると示されている。地域の実態に関する監視・評価を行える水準の統計資料が求められる。

条約第20条(個人の移動を容易にすること)と第21条(表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会)に関連して、パラレルレポートでは移動支援とコミュニケーション支援が社会参加、教育、就労等の縦割り制度の弊害により利用しづらい状況を記し、横断的な取り組みの必要性を指摘すべきである。

条約第25条(健康)には、障害者が特にその障害のために必要とする保健サービスとして、「新たな障害を最小限にし、及び防止するためのサービス」を挙げ、二次障害の防止に言及している。しかし、政府報告には二次障害に関する記述はない。ポリオの二次障害であるポストポリオ症候群は、社会的障壁を克服するために無理を重ね続けたライフスタイルがもたらしたものである。また、脳性まひの二次障害もよく知られている。社会的障壁が継続的に日常生活、社会生活に相当な制限をもたらすことが明確に示された現在だからこそ、医療のみならずライフスタイルに着目した二次障害防止への取り組みの重要性を周知すべきである。

条約第26条(ハビリテーション及びリハビリテーション)では「保健、雇用、教育及び社会に係るサービスの分野において、包括的なリハビリテーション」の重要性が指摘されているが、政府報告では医学的並びに職業的リハビリテーションが記しているだけである。専門職の連携のもと、本人を主体とする包括的(総合的)なリハビリテーションの重要性並びに現状についてパラレルレポートで検討すべきである。

条約第27条(労働及び雇用)に関しては、障害者の雇用を促進するためのさまざまな取り組みに期待されるが、監視・評価するための資料が乏しい。障害者雇用実態調査があるが、5年周期であるために、時期に応じた的確な情報を得ることができない。

条約第28条(相当な生活水準及び社会的な保障)に関して、政府報告では障害者基本法で「国及び地方公共団体に対し、障害者の自立及び生活の安定に資するため、年金、手当等の制度に関し必要な施策を講じることを義務付けている」と記している。しかし、そもそも「相当な生活水準」に関する基準が示されていない。国民生活基礎調査では、一般国民、高齢者に関して調査されているが、障害者の状況の記述はない。障害者の生活実態を監視・評価できる資料が必要である。

おわりに

統計資料が不十分であることが明白になったが、今後、統計資料が整備されればPDCAサイクルをもとに施策の充実が期待される。

条約締結のための集中的な法制改革や政府報告作成等では、中央障害者団体が連携して大きな役割を果たした。ところで、条約の意義を地域社会の隅々に浸透させ実効性を高めるには、地域の障害者団体の連携が必要になる。このように考えると、都道府県等において、各障害者団体が協議・活動する社会参加推進協議会の意義と役割は、これまで以上に大きくなると考えられる。さらに、障害者団体の市町村単位組織が大きな役割を担う必要があり、日身連としてもこれまで以上に責任と役割の大きさを実感している。これらの取り組みは、条約第8条との関連から極めて重要と考えられる。

(あべかずひこ 日本身体障害者団体連合会会長)