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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

国連・障害者の権利に関する条約のカントリーレポートについて

藤井貢

2014年2月、国連障害者の権利に関する条約(以下「条約」という)が日本において発効し、本年4月1日「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」が施行され、これで「障害者基本法」の改正に始まった条約批准のための一連の国内法整備が一段落し、新たな局面を迎えました。

この間の最も大きな成果は「障害」、「障害者」並びに「障害者差別」について定義されたこと、初めて「障害者の権利」に関する法律が成立したことにあります。

もちろん、未解決の課題は山積しており、その意味ではこれらの法律の施行は、一つの契機であって、今後も継続した取り組みが必要なことは言うまでもありません。法律を具体化する施策が実施され、国民の意識が大きく変わることによって初めて、私たちの暮らしが変わっていくのだと考えています。

カントリーレポートと政府報告

ところで、条約の締結国は、批准後2年以内に国連・障害者権利委員会に対し、条約の履行状況を報告する義務(条約第35条)があり、日本政府は本年、報告書を提出します。

政府報告書には、いくつかの問題があります。

中でも、立法府(国会)、司法府(裁判所)がこの条約履行の上で、どのような役割を果たすのかということが欠落している点が、最も大きな課題と言えます。このことについては、政府の「障害者政策委員会」でも問題になりましたが、行政が、裁判所や国会についてどのように言及するのかという、言ってみれば憲法上の難しい問題が横たわっているとして、結局のところ保留されてしまったのです。

これは、私たち障害者の参政権や裁判をする権利(あるいは受ける権利)がどのように保障されるかという、極めて具体的課題です。

そこで、日盲連と日身連は、両会長が連携して衆参両院の議長に申し入れをしました。当面は、国会における差別解消対応要領を定めることで、一定の改善が図られることになりましたが、抜本的な解決のためには立法措置が肝要です。

前述の一連の国内法の整備が行政府を中心に進められ、国を挙げての取り組みではなかったこと、従って、カントリーレポートが行政によって書かれなければならなかったことが浮き彫りになりました。

これらの国内法整備のために、「障がい者制度改革推進会議」をはじめ、「障害者政策委員会」「社会保障審議会」、その他の各種審議会や作業部会などに、私たちの代表者である障害当事者が多数参画し、意見を反映することで大きな成果も挙げてきました。しかし、制度改革に集中するあまり、これらの大枠での議論が不足していたことも否めない事実であったことは、私たちの反省すべき点であるのかもしれません。

このような課題をどの場で議論し解決するかということについては、今後の課題と言えます。

制定された法律(制度)上の課題

政府報告書は、これまで取り組んだ課題と成果、成立した法律・制度について報告していますが、積み残された課題については触れられていないのではと感じます。視覚障害者の立場から、その課題について少し述べたいと思います。

制度の大枠での問題は、高齢障害者対策です。この問題についてはあまり踏み込んで検討されていません。日本における障害者の大半が高齢者です。ことに、中途障害者の課題が踏み込んで検討されていないことが大きな問題です。

高齢障害者には「介護保険制度」がありますが、視覚障害者の課題として引き直してみますと、情報保障、移動保障については現行の介護保険では賄い切れていません。障害者施策として位置づけるか、介護保険制度に位置づけるかは別として、障害種別ごとの制度検討が必要です。

次に、視覚障害特有の課題についてです。

「情報障害者」である視覚障害者は、その障害ゆえに日常生活にさまざまな制約を受けます。

たとえば、銀行取引やさまざまな契約、手続き(行政上の手続き、民間における取引等)には、本人の意思や本人確認のために自筆・自署が必要なものが多数存在します。自署を求められても視覚障害者には困難です。結果として、社会生活上さまざまな不利益が生じています。銀行取引については、代筆などこれまでもさまざまな工夫がなされてきましたが、極めて限られた分野で実施されているだけで、社会的な広がりはありません。

社会生活に必須である契約の自由さえ保障されていない現状です。これは、社会保障という観点だけではなく人権上の課題として検討されるべきです。

「障害者差別解消法」によって、このような課題解決の糸口が見出されることを期待しているところですが、問題が発生した場合の解決の場をどこに見出すかについては、今後の検討課題と考えています。

終わりに

教育、職業、日常生活上の課題については本稿では割愛しますが、今後検討されるであろうパラレルレポートには、ぜひこのような課題についても問題提起をしたいと考えています。その過程を通じて、日本の障害者の権利保障と障害者福祉が進展し、誰もが安心して暮らせる社会が実現することを期待するものです。

(ふじいみつぐ 日本盲人会連合組織部長)